理学療法学Supplement
Vol.37 Suppl. No.2 (第45回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: P1-225
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一般演題(ポスター)
市販の外側楔状足底板を用いた歩行分析
三次元動作解析装置と床反力計を用いた力学的検討
武内 耕太和泉 健太寺坂 聖子正意 敦士中島 寛貴小田桐 匡松永 秀俊
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抄録

【目的】内側型変形性膝関節症(以下、膝OA)患者は起立時や歩行時の膝内側の痛みを訴えることが多い。これには膝関節内反変形に伴う膝関節内反モーメントの増大が関係しており、その進行を防ぐためには膝関節内反モーメントを減少させることが重要である。膝OA患者の保存療法で、外側楔状足底板(以下,足底板)を用いた治療は広く普及している。足底板の下肢に対するメカニズムとしての研究は1980年代から行われており、静的立位での膝関節内反モーメントの減少に有効であることが報告され、近年では動的状態である歩行においても同様に膝関節内反モーメントの減少に有効であると報告されている。しかし、多くの研究で用いられている足底板は義肢装具士により患者個人に合わせて作成されたものが多い。日常生活において足底板は膝OA患者のみならず一般人向けに使用されることも少なくない。そこで本研究では比較的安価で入手しやすい市販の足底板を用いて、内反膝傾向の学生を対象とし、足底板が歩行に及ぼす影響について比較検討した。

【方法】対象は内反膝傾向の男子学生6名(21±0.4歳、身長173±4cm、体重59±11kg、以下、内反膝群)と内反膝を有さない健常男子学生10名(年齢20.8±0.8歳、身長172±2cm、体重63±5kg、以下、健常膝群)とした。尚、内反膝の判定は足部内側をつけて揃えた自然立位で大腿骨内側顆間距離が2横指以上あるものとした。測定方法は10mの歩行路をメトロノームを用いて一定の速度で平地歩行を行わせ、足底板なし歩行(以下、NW歩行)、足底板あり歩行(以下、W歩行)の2条件で3回ずつ測定した。足底板は縦・横・高さが194mm×83mm×9.8mmのものを用いた。歩行測定では赤外線反射マーカーをヘレンヘイズマーカセットと一致する箇所に貼付した。すなわち、頭頂、外後頭隆起、額中央、右肩甲骨下角、仙骨後面と両側の肘頭、尺骨茎状突起、上前腸骨棘、大腿外側、膝裂隙外側、脛骨外側、外果、第2中足骨頭、踵骨の計25ヶ所に貼付した。また、歩行計測とともに関節可動域(以下、ROM)測定も行い、ROMと足底板との関係についての検討も行った。ROM測定項目は、足関節屈伸・内外反、膝関節屈伸を計測した。データの解析は左右の踵接地から足尖離地までとし、立脚期全体と立脚初期、中期、後期に分けて体幹、股関節、膝関節、足関節の矢状面および前額面上での角度変化と関節モーメントを三次元動作解析装置(MAC 3D system、MOTION ANALYSIS社製)と床反力計(AMTI社製)を用いて算出した。この際、身体計測点の座標データおよび床反力データは1歩行周期を100として正規化し、関節モーメントについては、被験者の体重で正規化した。統計処理には、各条件下の3試行分の立脚期の平均値を用いてt検定を行った。データの有意差の判定には,p<0.05とした。

【説明と同意】各被験者には実験前に研究の目的と方法を十分説明し、実験に被験者として自主的に協力する旨の同意を得た。

【結果】ROM測定では内反膝群と健常膝群のいずれの測定項目でも有意差はみられなかった。NW歩行において、内反膝群の立脚期全体の平均値は健常膝群と比較して、左股関節外転角度の増加、左右膝関節内反角度の増加、右脚立脚期での右体幹側屈角度の増加、右膝関節内反モーメントの増加と有意差が認められた。W歩行において、健常膝群は内反膝群と比較して、左股関節外転角度の減少、左右膝関節内反角度の減少、右脚立脚期での右体幹側屈角度の減少、左右膝関節内反モーメントの減少がみられ、それぞれ有意差がみられた。また、NW歩行とW歩行の比較では、健常膝群で右床反力垂直方向の減少、左右膝関節内反モーメントの減少、左右足関節背屈モーメントの減少がみられ、それぞれ有意差がみられた。内反膝群で右足関節外反モーメントの増加、左足関節背屈モーメントの低下がみられ、それぞれ有意差がみられた。

【考察】NW歩行において内反膝群は健常膝群と比較して、右膝関節内反モーメントの増加と有意差がみられた。膝OA患者は内反変形を伴い下肢機能軸は内方を通過し、それに伴い膝関節の内側に過度のストレスが生じる。本研究でも内反膝群は健常膝群と比較して、歩行立脚期で膝関節内反角度の増加がみられた。これにより下肢機能軸が内方に偏位し、床反力作用点からの膝関節内反モーメントアームが延長したことにより生じたものと考えられた。尚、立脚期を初期、中期、後期に分けた足底板の影響については本学会で発表する予定である。

【理学療法学研究としての意義】本研究の主旨は、内反膝傾向の者に対して、市販の足底板の膝関節や足関節、股関節、体幹に対する効果を検討することである。

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© 2010 日本理学療法士協会
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