抄録
【目的】児童の足部機能と足部内側縦アーチ高に着目した足部形態,運動能力との関連を明らかにし,近年低下が指摘されている児童の運動能力への影響を調査することである。
【方法】弘前市内の某小学校に在籍する1年生61名122足(男31名,女30名)を対象とし,足部形態・足部機能の測定および評価を実施した。足部形態の指標では,内側縦アーチのアーチ高率を用い,足長に対する舟状骨高の割合によって算出した。足部機能の指標として,足趾じゃんけん運動に基づく足趾機能評価基準を用いた。運動能力の指標として,各小学校で実施される“新体力テスト”(文部科学省作成)の結果を採用した。テスト項目は,握力,上体起こし,長座体前屈,反復横とび,20mシャトルラン(往復持久走),50m走,立ち幅とび,ソフトボール投げ,の8種目から構成されているが,本研究ではこのうち下肢の運動機能に関連する反復横とび,50m走,立ち幅とびの3種目のみを取り上げた。
アーチ高率,運動能力,足部機能のそれぞれの関連について検討するにあたり,アーチ高率は,被検者の平均値を求め,平均値よりも大きい群と小さい群に分類し,体力テストの実測値に差があるかどうかを検討した。同様に,足趾機能評価基準の得点においても,平均値よりも大きい群と小さい群に分類し,体力テストの実測値に差があるかどうかを検討した。統計処理には,t検定とMann-Whitney検定を用いた。また,アーチ高率の値と足趾機能評価基準の得点との関連性の検討には,Spearmanの順位相関係数を用いた。全ての検定において,α<0.05を有意とした。
【説明と同意】研究実施にあたっては,研究の趣旨を理解した校長から同意書を得たうえで,保護者に対する文書による説明と同意により,保護者の理解と同意が得られた児童を対象とした。
【結果】対象者のうち,欠損値のないものは60名であった。アーチ高率の高低による運動能力の比較では,反復横とび(p=0.444),50m走(p=0.567),立ち幅とび(p=0.580)の全ての項目で有意差はなかった。足部機能においても,足趾機能評価基準の得点が高い群と低い群との間に,反復横とび(p=0.230),50m走(p=0.465),立ち幅とび(p=0.801)全ての項目で有意差はなかった。アーチ高率と足趾機能評価基準得点との間の相関は,rs=0.032で有意ではなかった。
【考察】先行研究では,足底の接地面の状態から内側縦アーチの形成の程度を分類する野田式分類法と,運動能力との関連が報告され,10~12歳の小学生において足を使う運動ではアーチ形成者の方が成績が勝っていると述べられている。しかしながら,野田式分類法では,足部の内側縦アーチ部分の軟部組織などは考慮されておらず,舟状骨高が高くても「扁平足」と判断されることがあるため,本研究では扁平足の指標としてアーチ高率を用い,運動能力・足部機能との関連性を検討した。その結果,これらの指標において,いずれも有意な関連性は認められなかった。野田の報告では小学高学年を対象としているので一概に比較はできないが,小学6年生までで90%の児童にアーチ形成がみられるとされていることから,運動能力の差が顕著であった可能性がある。それに対して本研究での対象者は小学校1年生であり,アーチ高以外の要因が運動能力に関与している可能性もあり,今後経時的に同一対象の発達的変化を追跡することにより,児童の足部形態や足部機能,運動機能の発達的変化を明確にできるものと思われる。また,アーチ高率とfootprintでは評価の質的な違いがあることが指摘されており,これについても今後の課題である。
本研究における限界としては,新体力テストは各学校の教員による実施に頼らざるを得ないこと,そして,特に小学校低学年では周囲の環境に大きく影響を受け,児童のモチベーションが変化したり,指示や使用機器の統一性に問題があると指摘されている点である。
【理学療法学研究としての意義】今後追跡調査を行うことによって,児童の運動能力に対する足部成長や機能面での影響の程度を明確にすることにより,低下傾向にある運動能力を向上させるための積極的な健康増進に向けたアプローチの有用性を示すことができると考えられる。