理学療法学Supplement
Vol.38 Suppl. No.2 (第46回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: PI1-004
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ポスター発表(一般)
虚血再灌流後の運動負荷が骨格筋に与える影響
ラットによる実験的研究
梅井 凡子山崎 麗那小野 武也大塚 彰沖 貞明武本 秀徳大田尾 浩
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抄録

【目的】四肢における整形外科的手術では,一般的に駆血を目的としてターニケットを適用する。我々は先行研究において虚血再灌流後の骨格筋では浮腫と筋萎縮が同時に発生していることを報告した。このような状態の骨格筋に運動負荷をかけることがどのような影響を及ぼすのかを検証することを目的とした。
【方法】対象は8週齢のWistar系雌性ラット25匹である。これらを5匹ずつ無作為に5群に振り分けた。振り分けた5群のうち1群を処置なしの「正常群」とした。残りの4群は麻酔下にて右後肢に対し駆血を行った。駆血には指用ターニケットカフDC1.6を使用し,加圧装置はラピッドカフインフレータE20,カフインフレータエアソースAG101を使用した。駆血圧は300 mmHgで駆血時間は90分間である。駆血を行った4群は再灌流後に「再灌流のみ3日群」「再灌流開始後運動3日群」「再灌流のみ4日群」「再灌流開始後運動4日群」に群分けをした。運動負荷はトレッドミルにて再灌流開始24時間後より行った。運動中の様子はビデオカメラ撮影を行い運動時の歩行状態を観察した。すべての群は実験終了時に右後肢からヒラメ筋を摘出した。摘出したヒラメ筋は、直ちに電子天秤で筋湿重量を測定し,さらにラットの個体間の体重差を考慮するためヒラメ筋相対体重比を求めた。ヒラメ筋湿重量測定後,液体窒素で急速冷凍させ凍結ヒラメ筋標本を作製した。凍結ヒラメ筋標本はクリオスタットを使用して,10 μm厚のヒラメ筋筋組織横断切片を作製し,H&E染色を施した。顕微鏡デジタルカメラを使用して標本毎にヒラメ筋線維横断面短径の平均値を求めた。
統計処理は統計処理ソフトにて分散分析を行い,有意差が見られた場合は多重比較検定を行った。危険率5%未満をもって有意差を判定した。
【説明と同意】本実験は、動物実験モデルであるために演者所属の動物実験倫理委員会の承認を受けて行った。
【結果】ヒラメ筋相対体重比は「正常群」で0.53 mg/gであった。それに対し「再灌流のみ3日群」は0.46 mg/g,「再灌流開始後運動3日群」は0.48 mg/g,「再灌流のみ4日群」は0.46 mg/g,「再灌流開始後運動4日群」は0.44 mg/gであった。各群間の比較では「正常群」に比較し「再灌流開始後運動4日群」で有意にヒラメ筋相対体重比が減少していた。
ヒラメ筋線維横断面短径は「正常群」で42.54 μmであった。それに対し「再灌流のみ3日群」は34.39 μm,「再灌流開始後運動3日群」は39.88 μm,「再灌流のみ4日群」38.63 μm,「再灌流開始後運動4日群」38.40 μmであった。各群間の比較では「正常群」に比較し「再灌流のみ3日群」で有意にヒラメ筋線維横断面短径が減少していた。
運動負荷時の歩行状態は再灌流1日後では右下肢末梢に神経麻痺の状態を呈しており, 足関節底屈位のまま歩行をしていた。時間経過とともに神経麻痺の状態は軽減した。再灌流4日後にはすべてのラットにおいて背屈可能となったが,足趾は弛緩しているものもいた。
【考察】ターニケットを使用した場合,虚血再灌流障害により骨格筋組織においては炎症反応と浮腫が発生する。その時,筋細胞においては虚血による代謝障害により筋細胞の退行性変化である筋萎縮が発生している。しかし,虚血再灌流障害が発生している場合においても廃用性の筋萎縮を予防するために早期より運動療法を行う。術後の炎症時期に過度の運動療法を行うことは炎症をより助長してしまい,痛みや機能障害を引き起こす可能性もある。織田は骨格筋に起こる虚血再灌流障害で浮腫が増大した場合コンパートメント症候群の増大を引き起こすと述べている。今回の結果から虚血再灌流後の歩行は末梢神経障害の状態を呈していた。運動負荷を行った場合の筋湿重量は4日後には有意に減少しており,浮腫の減少を促進させたと考える。そして浮腫からの回復に伴い歩行動作は改善していた。一方筋線維短径を見ると運動負荷を行った場合には減少せず早期からの運動効果として筋萎縮を予防できたと考える。
【理学療法学研究としての意義】虚血に強いといわれている骨格筋においても,再灌流後は浮腫と筋萎縮を伴っているため運動開始時期と運動負荷量の検討が必要である。今回の研究において,再灌流24時間後からの骨格筋に対する運動負荷の影響が確認出来た。今回の結果は,ターニケットを使用した場合の早期運動負荷は浮腫の改善と筋萎縮の予防が出来ることを示唆している。今後は虚血再灌流後に行う適切な運動の種類と運動負荷量について検討していく予定である。

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© 2011 日本理学療法士協会
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