理学療法学Supplement
Vol.38 Suppl. No.2 (第46回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: PI1-020
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ポスター発表(一般)
透析患者における運動療法介入効果についての検討
第2報
塩田 琴美橋本 俊彦松田 雅弘高梨 晃川田 教平宮島 恵樹野北 好春堀部 浩司小林 真紀子石永 裕司井口 靖浩池田 誠
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抄録

【目的】
近年では血液透析(以下、HD)患者の増加に加え、高齢者への透析導入や透析歴が10年以上に及ぶ患者も増加している。一般的にHD患者では、骨格筋の筋力低下・筋萎縮、筋血流分布の低下、心肺機能の低下など運動耐用能の低下が生じている。また運動習慣のないHD患者では、前述の機能は更に低下し、死亡率が高いことがこれまでの研究結果から示されている。この様な身体機能の低下は、Activities of Daily Living(ADL)やQuality of Life(QOL)の低下を導き悪循環を形成すると報告されている。そのため、身体機能の低下により悪循環を減少するために、運動療法の導入が急務である。しかし、これまでに日本においてHD患者に対する運動療法の効果を示した研究は未だ少ない。加えて、先行研究の多くは、非透析日に運動療法を行うものが多く、身体機能の効果は認められているが、同時に脱落者が多いことも示されている。そこで、本研究では、透析施行中に継続した1年間の運動療法を実施し、その介入効果について明らかにすることを目的とした。
【方法】
対象は、全身状態および透析施行中の循環動態が安定し、本実験に対し参加の同意の得られたHD患者9名とした(年齢58-77歳; 男性 4名, 女性5名;透析歴 4.5±4.35年)。はじめに、介入前の身体機能測定を実施した。身体機能測定では、筋力評価として握力(握力計;竹井機器社製)、簡易型筋力計(μ-tas F-1; Anima社製)を用いての股関節屈曲、膝関節伸展、足関節背屈および底屈筋、加えて最大筋力測定時に筋電図計(DKH社製)を用いての筋活動量の評価を行った。更に、バランス能力評価として開閉眼での片足立位保持時間、開閉眼での静的立位時の重心動揺の測定(G- 620; Anima社製)、Functional Reach test(以下;FR),Timed Up and Go test(以下;TUG)、歩行能力評価として普通時と最大時の10m歩行速度の測定を行った。運動療法では体幹・下肢の筋力増強を中心として、週に一回セラピストが個別にベッド上で透析施行中に行った。加えて、運動療法介入中の血液検査データおよび血圧データについても経時的な変化を記録した。運動療法介入1年後、身体機能測定項目、血液検査データおよび血圧データを介入前後でSPSS 15.0 J for windowsを使用し、wilcoxonの順位和検定を用いて比較検討を行った。
【説明と同意】
対象者には、事前に本研究の内容を説明し同意を得て行った。
【結果】
全参加者が1年間にわたり運動の継続が可能であった。加えて、介入前後において、身体機能の項目では、膝関節伸展筋力、足関節背屈筋力および歩行速度にて有意に機能の向上を認めた(P<0.05)。また、血液検査データおよび血圧については、有意な差を認めなかった(P>0.05)。
【考察】
本研究では、透析施行時に1年間に渡って運動療法を施行し、その介入効果を明らかにした。その結果、身体機能において有意な改善を示した。また、血液検査データおよび血圧については有意な差を認めなかった。更に、1年間を通して、血液透析施行中に運動療法を実施しても循環動態に変動をきたす対象者もみられなかった。これらの結果から、透析中の運動療法の介入は、循環動態に対する悪影響を与えないことが示唆できる。更に、金沢らは、慢性腎不全の病態下において長期的運動を行っても腎機能や腎病変は必ずしも憎悪せず、むしろ腎を保護する可能性があると示唆している。加えて、HD患者の多くは栄養状態が不良であることも多い。このように運動療法を介入することで、食欲を増進させ栄養障害の改善につながる効果も期待でき、様々な因子における効果を望めると考えられる。今回の対象者においても、運動療法の介入をきっかけとしてその効果を実感し、多くの対象者が運動習慣など自己管理能力を高める傾向にあった。今後も運動処方を安全にかつ効果的に行うためにも、検査データなどの所見を含め、HD患者の身体機能の特性を明らかにし、それらを基に透析中の運動処方時におけるプロトコールの作成を行う必要があると考えられる。
【理学療法学研究としての意義】
透析患者の運動療法については、未だ研究報告が少ない。そこで、透析患者に対する運動療法を推進していくためにも、運動療法を行う意義・効果を示す研究として重要な意義を示す研究であると考えられる。

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© 2011 日本理学療法士協会
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