理学療法学Supplement
Vol.38 Suppl. No.2 (第46回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: PI1-060
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ポスター発表(一般)
理学療法士と介護福祉士が歩行介助を加えた際の歩行時筋活動の比較
原 大樹今田 健
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キーワード: 歩行, 介助, 表面筋電図
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抄録

【目的】
理学療法士は,歩行介助を加えることで,筋活動の強さ,タイミングを調整し,患者の運動学習を促している.しかし,理学療法士の歩行介助方法は患者にとってどの程度好ましい筋活動を引き出せているのか明確ではなく,介護福祉士が行う歩行介助と比較してどの程度違いが認められるのかという点も明確ではない.そこで今回,同一症例に対し,理学療法士と介護福祉士がそれぞれ歩行介助を加えた際の歩行時筋活動の違いを,表面筋電図を用いて検討したので報告する.

【方法】
対象は,歩行介助を加える役割を担う理学療法士及び介護福祉士,各1名であり,理学療法士は臨床経験5年目,介護福祉士は臨床経験10年目であった.理学療法士,介護福祉士が歩行介助を行った症例は,左視床出血を発症して右片麻痺を呈した59歳女性であった.歩行時の特徴として,麻痺側の立脚期において反張膝が認められた.自由歩行,介護福祉士が介助を加えた歩行(以下,介護福祉士介助歩行),理学療法士が介助を加えた歩行(以下,理学療法士介助歩行)の3通りの歩行を10mずつ行い,その際の筋活動を無線筋電計km-818T(メディエリアサポート社)にて計測した.各歩行間は,端坐位にて十分な休息を取り入れた.被検筋は両側の内側広筋(以下,VM)と大殿筋上部線維(以下,GM)とした.電極はBlue Sensor P-00-S(Medicontest社)を使用し,VMは膝蓋骨上縁内角より内上方へ2横指の位置に,GMは大転子と仙椎下端を結ぶ線上外側1/3の位置に,それぞれ電極中心間距離3cmで筋腹部の十分な前処理後に貼付した.整流処理の後,各歩行において任意に10歩行周期を取り出し,1歩行周期に対して階級幅5%で正規化を行い加算平均した.

【説明と同意】
理学療法士,介護福祉士と症例に対し,事前に本研究の目的を十分に説明し,表面筋電図を用いた運動機能評価に関する十分な理解と協力の意思を確認してから行った.

【結果】
自由歩行では1歩行周期あたりの平均筋活動量が麻痺側VMで5.74μV/sec,麻痺側GMで7.62μV/secであり,いずれも初期接地から緩徐に増加して歩行周期の25%でピークに達するという,正常歩行とは異なる筋活動パターンを示した.介護福祉士介助歩行では,歩行中の平均筋活動量は麻痺側VMで6.18μV/sec,麻痺側GMで7.97μV/secであり,筋活動パターンは自由歩行時と同様であった.理学療法士介助歩行では,歩行中の平均筋活動量は麻痺側VMで17.51μV/sec,麻痺側GMで7.66μV/secであり,歩行周期の5%にピークまで急速に増加し,歩行周期の15%まで高い筋活動を持続するという,正常歩行に近似した筋活動パターンを示した.

【考察】
介護福祉士介助歩行時における麻痺側VM,GMの筋活動は,平均筋活動量,筋活動パターンのいずれも自由歩行時と同様であった.介護福祉士が患者の麻痺側膝窩部を両手で把持して下肢の振り出しと立脚支持を介助する方法であったが,反張膝を制御しきれず自由歩行時と同様に反張膝が出現し,麻痺側VM,GMの筋活動促通に至らなかったと考えられた.一方,理学療法士介助歩行においては,荷重応答期に膝関節を軽度屈曲位に制御する介助を加えたことによって麻痺側VMの筋活動が促通され,平均筋活動量が自由歩行時,介護福祉士介助歩行時に比べて高値を示す結果として表れたと考えた.加えて,患者が理学療法士の歩調に合わせられるように体幹も介助して重心移動を促したことが麻痺側VMの筋活動パターンの正常化につながったと考えられ,反張膝を伴わない歩容の学習を促す上で効果的であると考えられた.正常歩行に近似した筋活動を引き出すために有用な介助方法を選択し,提供した点より,理学療法士の専門性が説明された.

【理学療法学研究としての意義】
近年,理学療法士以外の職種が歩行練習等のリハビリテーションを行っても同等の効果が得られるという報告が散見されており,理学療法士の専門性が問われている.本研究は,理学療法士による歩行介助は介護福祉士による歩行介助に比べて好ましい筋活動を引き出すことができる効果的な歩行介助であることを筋電学的に説明し,理学療法士の専門性を提唱した.

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© 2011 日本理学療法士協会
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