理学療法学Supplement
Vol.38 Suppl. No.2 (第46回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: PI1-061
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ポスター発表(一般)
随意的筋弛緩に関わる主動作筋・拮抗筋を支配する皮質運動野の制御動態の検討
吉田 直心田辺 茂雄山口 智史菅原 憲一
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抄録

【目的】
筋収縮からの随意的弛緩は、筋収縮制御と同様に筋機能または各種動作の円滑な遂行にとって重要である。先行研究において、その弛緩制御動態は、単純に運動野の興奮性の減少によって生じるものではなく、様々な入出力の多寡が導く複雑なメカニズムの関与が存在することが知られている。しかし、その詳細は明らかとなっていない。さらに、筋緊張異常等による円滑な収縮弛緩調整が行われない症状に対する随意的筋弛緩の獲得は、神経生理学的メカニズムを考慮に入れた理学療法アプローチが必要となる。そこで本研究では、電気生理学的手法を用いて随意的筋弛緩に関わる上位中枢の制御動態を、一次運動野の興奮性の変化から分析検討した。
【方法】
対象は右利きの健常成人12名である(男6名、女6名、年齢27±5.6歳)。運動課題は、右手関節掌屈(橈側手根屈筋:FCR)筋出力によって、最大筋収縮力(MVC)の30%の状態を保持する。その状態から逆ランプ(下降線)の視覚指標に合わせて完全筋弛緩まで行うこととした。課題施行時間は、10秒(slow)と5秒(rapid)の2種類とした。この2種類の課題中にそれぞれ、30%MVCから完全弛緩(0%)いたる下降中の80%減衰時点(slow80%およびrapid80%)と20%減衰時点(slow20%およびrapid20%)で、経頭蓋磁気刺激(TMS)により、FCRと橈側手根伸筋(ECR)の運動誘発電位(MEP)を測定した。control条件は、下降線の80%、20%と同一の筋収縮量で一定に保持した時 (hold80%およびhold20% )のMEPを両筋から測定した。また、FCRおよびECRの背景筋電図量としてTMSの前100msの実効値(RMS)を抽出した。刺激のタイミングは、LabVIEWプログラミングソフトにより制御した。control条件(hold)に対する、課題中のMEPおよびRMSの割合を、それぞれMEP振幅比およびRMS比とした。統計解析は、MEP振幅比およびRMS比に対して、SPSS(ver16.0)を用いて、弛緩速度(slowとrapid)と弛緩強度(80%と20%)の2要因による2元配置分散分析を行い、要因の主効果と要因間の交互作用の有無を求めた。また、主効果が有意であった要因で、対応のあるt検定を行った。なお、有意水準は5%未満とした。
【説明と同意】
ヘルシンキ宣言に基づき、実験前に、被験者に実験の目的と手順を十分に説明し、同意書にて同意を得た。なお、本研究は、神奈川県立保健福祉大学の研究倫理審査委員会で承認された(22-34-001)。
【結果】
2元配置分散分析の結果、拮抗筋であるECRのMEP振幅比において、弛緩強度に有意な主効果を認めた(F=23.411、p<0.01)。交互作用は認められなかった(p>0.05)。このため、ECRのMEP振幅比において、80%減衰時点と20%減衰時点の差について対応のあるt検定を行った。その結果、rapid課題(p<0.01)にて20%減衰時点のMEPの方が有意に大きかった。ECRのRMS比では、いずれもわずかに増加する傾向が見られ、主動作筋のFCRでは、slow・rapid課題とも20%減衰時点のMEP振幅比とRMS比が減少する傾向が見られたが、それぞれ主効果、交互作用とも認められなかった。
【考察】
一定強度の筋収縮から緩徐に筋弛緩を行っていく過程における皮質運動野の興奮性動態を検討した。その結果、主動作筋を支配する運動野の興奮性は,特異的な変化は見られなかった。一方、拮抗筋に関しては、rapid20%においてECRのMEP振幅比が有意に増加していた。すなわち、比較的ゆっくりとしたスピードで調整的に筋弛緩を増大させていく過程で、さらに、より小さい収縮に至ったところで拮抗筋を支配する皮質運動野の興奮性が増大する結果が得られていた。このことから、筋弛緩時、その拮抗筋を支配する皮質運動野の制御動態に特異的な変化が生じている可能性が示唆された。この結果から、随意的筋弛緩課題の中枢性制御において、筋弛緩の完成に近づくに従って拮抗筋を支配する皮質運動野の興奮性の上昇がその制御過程に重要な役割を果たしている可能性が考えられた。
【理学療法学研究としての意義】
筋緊張異常は、拘縮、疼痛、中枢神経障害等により生じ、基本動作や日常生活活動の低下につながる。これらの改善には、随意的に筋弛緩を得ることが必要となる。本研究は、筋弛緩を得るためのメカニズムを検討したものであり,基礎的、臨床的に理学療法にとって有用な知見を得るものである。今回の検討結果から、異常緊張を生じている筋の弛緩に関わる主動作筋への意識的な介入はもとより、拮抗筋の調整過程に対してアプローチが要求されることが明らかとなった。

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© 2011 日本理学療法士協会
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