理学療法学Supplement
Vol.38 Suppl. No.2 (第46回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: PI1-062
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ポスター発表(一般)
脳卒中片麻痺患者の上肢治療用リハビリロボットの開発(第3報)
上肢の到達把持動作における体幹屈曲運動が殿部,足底部へ及ぼす影響について
涌野 広行吉田 政史大山 幸子安谷屋 晶子林 克樹小野山 薫坂井 伸朗村上 輝夫
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抄録

【目的】脳卒中片麻痺患者の上肢・手の機能回復への要望は強く、日常生活の質を高めるためにも上肢・手の回復は非常に重要である。近年、世界的に医療・福祉分野のロボットの研究が盛んに行われ、治療用ロボットが注目されてきている。しかし、上肢の治療用ロボットは上肢機能の回復を図る上で重要な肩甲骨や体幹が切り離されて開発されているのが現状である。そこで、当院では九州大学大学院工学研究院機械工学部門と協同で、肩甲骨や体幹を含めた到達把持動作が可能な肩甲骨機構および体幹ロボット装具を自作した。前回の第45回日本理学療法学術大会では、到達把持動作時に肩甲骨機構および体幹ロボット装具の体幹屈曲運動のみを制動することで動作の停止が確認でき、到達把持動作における体幹運動の重要性を報告した。
今回、肩甲骨機構および体幹ロボット装具に殿部・足底部の床反力計と目標物へ加速度センサーを加え、到達把持動作時の体幹運動と床反力・床反力作用点(以下COP)との関係について検証したので報告する。
【方法】対象は、本研究参加に同意した健常成人男性1名(年齢36歳)。自作した肩甲骨機構・体幹ロボット装具と臀部・足底部に床反力計(Nintendo社)を設置した台に座り測定した。肩甲骨機構・体幹ロボット装具は肩甲骨運動、体幹前屈、回旋、側屈、股関節屈曲が可能な構造で、肩甲骨の運動軸、体幹前屈の運動軸(胸腰椎部)、体幹回旋と側屈、および股関節の運動軸にサーボモーター(Maxon社よおびYasukawa社)と力センサー(共和)を設置し、上腕と肩甲骨機構に電子式ゴニオメーター(Biometrics社)を取り付けた。これらはコンピューター(Interface社)により制御され、各関節の運動角度を定量的に計測した。関節角度は装置装着での自然座位、左上肢下垂位を0°とした。装置には被験者の動きへの追従制御、重量免荷制御を組み込んだ。運動課題は、前方に配置した目標物(1辺4.5cmの立方体)への到達把持動作とし、左上肢下垂位から目標物へ到達把持するまでの動作を2回測定した。目標物にはLEDライトと加速度センサーを埋め込み、LEDライトの点灯を合図として動作を開始し、加速度センサーにより把持の時刻を計測した。目標物の距離は到達把持動作が円滑に行える、左膝より前方35cmの距離とした。1回目は動作に追従するよう体幹ロボット装具を制御し(以下、追従制御)、2回目は点灯0.75秒後に体幹前屈運動のみを停止するよう制御した(以下、停止制御)。その際に体幹の屈曲運動が、上肢の到達把持動作と殿部・足底部の床反力・COPに与える影響を分析した。
【説明と同意】被験者には研究目的と内容・リスク面を説明し同意を得た。リスク面では短時間の実施時間であり、モータートルクも健常者の筋力を大きく下回るトルクに設定。実験者の任意で停止可能としておりリスク回避できるようにした。なお本研究を実施には倫理委員会の承認を得た。
【結果】追従制御では点灯0.3秒後に足底部の床反力が12.8kgから10.9kgへ減少し、臀部のCOPが後方へ、足底部のCOPが左側方へ移動した後、点灯0.4秒後に股関節屈曲、肩甲骨、体幹の屈曲の順で運動が開始した。関節運動に伴い、殿部の床反力は45.9kgから39.5kgへ減少、COPは左前方へ、足底部の床反力は10.9kgから21.8kgへ増加、COPは右前方へ移動した。点灯1.9秒後に到達把持が可能であった。
停止制御は点灯0.9秒後から殿部の床反力減少、COPの左前方への移動、足底部の床反力減少、COPの右前方への移動が急激にみられ、点灯1.1秒後に足底部のCOP、1.2秒後に床反力と臀部のCOPに加え股関節屈曲、肩甲骨運動が停止し、到達把持動作が実施できなかった。
【考察】立ち上がり動作と同様に、到達把持動作でも関節運動が開始する前に床反力とCOPに変化がみられた。停止制御では、体幹の屈曲に関連して床反力とCOPが停止したことから、体幹の屈曲運動が床反力とCOPを制御していることが確認できた。そのため、上肢治療用ロボットの開発は体幹の制御と、それに伴う床反力・COPの影響を考慮する必要性が確認できた。しかし、正常動作は様々なパターンがあるため、今後はデータ数を増やし各個人の動作の誤差範囲やパターンの検証をおこない、より適切な上肢運動の制御を目指し上肢治療用ロボット開発につなげていきたい。
【理学療法学研究としての意義】肩甲骨、体幹と股関節の制御が可能な上肢機能回復のためのロボット開発は、世界に類を見ないものである。本ロボットは、肩甲骨・体幹の様々な運動制御に加え床反力の計測が同時に可能であり、全身の協調した運動を分析することが可能である。また、本研究のような能動的な運動制御の検証は装着型ロボットによって初めて検討できる試みであり、理学療法学的にも新たな知見を与えることが期待される。

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© 2011 日本理学療法士協会
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