理学療法学Supplement
Vol.38 Suppl. No.2 (第46回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: PI2-006
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ポスター発表(一般)
マウス胚性幹細胞(ES細胞)由来神経幹細胞に対する超音波刺激の影響
筧 慎吾大森 啓介大津 昌弘吉江 拓也磯野 真由小野瀬 淳子柴田 雅洋中山 孝井上 順雄
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抄録
【目的】
超音波は医療現場では診断と治療に用いられ、理学療法でも使用される場面は多い。治療としての超音波刺激には温熱作用と非温熱作用があり、非温熱作用には細胞活性化の効果がある。間葉系幹細胞への超音波刺激が細胞増殖に効果があるとの報告があるが、機序については不明なことが多い。また、アメリカでは胚性幹細胞(ES細胞)由来の神経系細胞を脊髄損傷患者へ移植する臨床試験が開始され、再生医療が今後リハビリテーション現場を変える可能性がある。本研究では、ES細胞由来の神経系細胞移植後からの理学療法としての超音波刺激の利用の可能性を考え、マウスES細胞由来神経幹細胞に対する超音波刺激の影響を検討した。
【方法】
マウスES細胞から,我々が確立したNeural Stem Sphere(NSS)法によって分化誘導・調製した均質な神経幹細胞を,Neurobasal/B27培地に塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)を加えた条件で,培養皿に接着し、増殖させて使用した。細胞を培養皿へ播種24時間後に、超音波治療器(伊藤超短波社US-750)を用いて、培養皿底面から超音波刺激(周波数1MHz、時間照射率20%、照射時間5分間)した。照射強度は、Controlおよび0.5、0.75、1.0、1.5、1.75、2.0、2.5、3.0 W/cm2とした。照射後3日間の培養を行い、その間毎日、細胞計数と形態観察を行い、培養最終日に細胞免疫染色を行った。照射直後に培養皿から遊離した細胞をトリパンブルーで染色して、死細胞を判別した。照射中の培地温度変化は、サーモスタッド(井内衝機TXN-500A)を用いて、測定した。
【説明と同意】
本研究は,大学の研究安全倫理委員会の承認の下に行った。
【結果】
Controlの細胞は、培養期間中、対数的に増殖した。これに対して、超音波を照射した細胞は、0.5~1.0 W/cm2の強度では、照射直後に多くの細胞が培養皿から遊離した。このとき、遊離した細胞の90%以上がトリパンブルーで染色される死細胞であった。照射後2日目以降の増殖速度も低下した。一方、1.5~2.5 W/cm2の強度では、照射直後に細胞に大きな変化はなく、照射後1日目に細胞数がControlよりやや減少したが、2日目以降の増殖速度はControlと同様であった。また、培養3日目の細胞のほとんどは、Control と同様にNestin抗体に陽性(Nestin+)の神経幹細胞であった。しかし、3.0 W/cm2で照射した細胞では、照射直後にはほとんど変化がなかったが、照射後1日目に細胞数が顕著に減少し、増殖速度も低下した。照射により、培地の温度は照射強度に依存的に上昇し、照射5分後に2.5 W/cm2では42.2°C、3.0 W/cm2では45.8°Cであった。
【考察】
1.5~2.5 W/cm2の強度の超音波照射では、照射1日目に若干の細胞数の減少が見られたが、その後は神経幹細胞として増殖したことから、超音波照射が神経幹細胞の増殖能に影響しないことが明らかになった。一方、1.0 W/cm2以下の強度では、照射直後にほとんどの細胞の細胞膜が損傷を受け、細胞死が誘導された。浮遊状態の神経幹細胞でも0.5 W/cm2の超音波の照射により、細胞膜が損傷し細胞の外周に変形が起こり、細胞死が誘導されたことから、1.0 W/cm2以下の強度における細胞死の誘導は、超音波が細胞に直接的に作用して、細胞膜の破壊を引き起こしたためと推定した。これに対して、3.0W/cm2での照射による細胞死の誘導は、培養液の温度上昇による二次的な効果であると推定した。すなわち、当研究室では、43°C以上、20分間の熱処理により、神経幹細胞のアポトーシスが誘導されることをこれまでに報告している。3.0W/cm2照射では、5分後に45.8°Cまで培養液の温度が上昇したことから、熱ショック応答によるアポトーシスが誘導されたと推定した。他の細胞についての先行研究では、超音波照射によるアポトーシスの誘導、酸化的ストレス関連因子の遺伝子発現が報告されている。今後は、酸化的ストレス遺伝子の評価、細胞膜が破壊される機序などについての検討を進める。
【理学療法学研究としての意義】
再生医療が臨床で応用された際に、再生リハビリテーション分野での早期理学療法の介入意義を細胞レベルから検証することができる。また、超音波刺激による細胞への影響を解明することは、臨床応用の拡大にもつながる可能性がある。
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© 2011 日本理学療法士協会
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