理学療法学Supplement
Vol.38 Suppl. No.2 (第46回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: PI2-058
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ポスター発表(一般)
立位姿勢における頭部・頸胸椎・肩甲骨・上肢のアライメントに影響を与える因子の検討
市川 和奈竹井 仁松村 将司宇佐 英幸小川 大輔見供 翔
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抄録
【目的】姿勢アライメントに関する研究は、部位別のアライメントと筋力の関係を調べたものや、加齢による変化や疼痛との関係を調べたものは散在するが、頭部・頸胸椎・肩甲骨・上肢全体を関連づけてアライメントと筋力および関節可動域との関連を調べたものはみられない。本研究では立位における頭部・頸胸椎・肩甲骨・上肢アライメントと筋力および関節可動域との関連を検討した。
【方法】被験者は整形外科的既往のない健常成人32名(男性14名、女性18名)で、平均年齢は21.9(19-27)歳、身長と体重の平均値(標準偏差)は男性173.2(5.2)cm、63.2(8.0)kg、女性159.9(5.1)cm、50.2(6.2)kgであった。肩甲骨アライメントの測定項目は、1)肩甲骨の前額面に対する前方傾斜角度[°]、2)肩甲棘基部から胸椎棘突起の水平距離[cm]、3)肩甲骨内側縁の大菱形筋下縁付着部から胸椎棘突起の水平距離[cm]、4)肩甲骨の回旋角度[°](上方回旋角度を正とする)の4項目。頭部・頸胸椎アライメントの測定項目は、5)C7を通る垂直線とC7と耳珠を結んだ線の角度(Forward Head Angle)[°]、6)スパイナルマウス(Index社製)による胸椎後弯角[°]の2項目とした。被験者の骨指標にマーカーを貼付し、自然立位をとらせ、10m離れた位置に設置したデジタル一眼レフカメラ(Canon EOS Kiss X4)を用いて撮影した。解析にはシルエット計測ver4.00(MedicEngineering Inc)を使用した。傾斜角は対象者の頭上に鏡を設置し、撮影した画像から角度を測定した。なお、2)3)は身長で除した比率[%]を測定値として使用した。筋力は肩甲骨挙上、肩甲骨下制・内転、肩関節伸展、体幹伸展の4項目、関節可動域は頸部、上肢帯、肩関節、体幹において16項目を測定した。関節可動域測定にはゴニオメーター、筋力測定にはハンドヘルドダイナモメーター(ANIMA社製μTasMT-1)を使用した。筋力値は5秒間の最大随意収縮を2回行い、平均値をモーメントアーム長・体重で補正した値[kg・m/weight]を測定値とした。統計解析は、まず右肩甲骨アライメント4項目を変数としたクラスター分析を行い、対象を3群に分類したのち3群間で姿勢アライメント、筋力、関節可動域項目を従属変数として一元配置分散分析と多重比較(LSD法)を実施した。統計解析ソフトはPASW Statistics18を使用した。有意水準は5%とした。
【説明と同意】本研究は首都大学東京荒川キャンパス研究安全倫理委員会の承認(承認番号:09048)を得た上で、被験者に本研究の目的を十分に説明し、書面にて研究参加の同意を得た。
【結果】クラスター分析により分類された3群はA群10名(男性5名、女性5名)、B群16名(男性5名、女性11名)、C群6名(男性4名、女性2名)となった。有意差が認められた項目は以下のとおりである。1)ではB群、C群に対しA群が有意に前方傾斜していた。2)ではB群に対しA群、C群が有意に外転していた。3)ではB群、C群に対しA群が有意に外転していた。4)ではA群、B群に対しC群が有意に下方回旋していた。5)ではB群に対しC群で有意に頭部が前方変位していた。6)ではB群に対しC群で有意に胸椎が後弯していた。関節可動域では頸部左側屈にてA群に対しC群が有意に小さい値を示した。
【考察】肩甲骨アライメントと頭部・頸胸椎アライメントの結果より、A群は肩甲骨外転・前方傾斜群、C群は胸椎後弯・前方頭位・肩甲骨下方回旋群に分類された。肩甲骨は胸郭上のTh2~Th7の間に位置し、前額面で30~35°前方傾斜している。内側縁は脊柱にほぼ平行で、胸椎との距離は成人男性で約7cmである。また、胸椎後弯角の平均は男性39.8°女性33.8°である。B群はこれらの値に最も近く、理想的なアライメントを有する群であると考える。また、関節可動域ではC群において頸部側屈角度が有意に減少していた。この群は肩甲骨が下方回旋していることから肩甲挙筋が短縮していると考える。一方、A 群では下方回旋していないことから側屈角度で有意に大きい値を示した。このようにA群、C群ではアライメントと関節可動域に関連がみられたが、B群ではみられなかった。本研究の被験者は健常成人であり年齢も若いことから、組織の解剖学的変化よりも日常的な反復動作や同一姿勢の保持といった個人差の影響が大きく、アライメント・筋力・関節可動域の間に明確な関連がみられなかったと考える。特に筋力においては群間での男女比のばらつきが影響し、有意差がみられなかったと考える。今後は対象数を増やし、年齢別での検討、男女別での検討が必要であると考える。
【理学療法学研究としての意義】健常人の姿勢アライメントを分類し類型化することで今後引き起こされる筋・骨格系の機能障害が予測でき、それを予防するためのエクササイズの考案や患者への生活指導が的確に行える点で意義があると考える。
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© 2011 日本理学療法士協会
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