理学療法学Supplement
Vol.38 Suppl. No.2 (第46回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: PI2-066
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ポスター発表(一般)
ラット三叉神経感覚核群における痛覚情報処理機構の解明
丹羽 亜希美角田 晃啓上山 紗千代三木屋 良輔森谷 正之
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キーワード: 三叉神経, 痛覚, ラット
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抄録

【目的】摂食嚥下機能は、生命維持の根幹に関わる極めて重要な機能であり、これらの機能が適正かつ円滑に遂行されるためには、口腔・咽頭領域からの正確な感覚情報の入力が不可欠である。我々は前回の本学術大会において、咬筋に分布する高閾値機械受容性一次求心線維の中枢投射様態を検討し、三叉神経感覚核群(主感覚核 [Vp]、吻側核 [Vo]、中位核 [Vi]、尾側核 [Vc])に広く終止することを報告した。今回は、痛覚情報伝達に関与することが知られているSP(substance P)、CGRP(calcitonin gene-related peptide)、P2X3受容体の三叉神経感覚核群での発現様態を観察したので、前回の本学術集会での報告結果と合わせて、ラット三叉神経感覚核群における痛覚情報処理機構について報告する。
【方法】実験にはSprague-Dawley系ラットを用いた。深麻酔下にてラットを、経心臓的に生理食塩水にて瀉血後、4%パラホルムアルデヒドを含有する0.1Mリン酸緩衝液で灌流固定した。三叉神経感覚核群を含む脳幹部分を摘出し厚さ60mの凍結連続切片を作成した。作成した切片を抗CGRP抗体、抗SP抗体または抗P2X3受容体抗体で処理して、ABC法により免疫組織化学的に陽性ニューロンを標識した。また、この処理を行った切片の一部についてはCresyl Violetにて対比染色した。Permountにて包埋した後、描画装置を装着した光学顕微鏡(Nikon、 Eclipse 80i)で観察、描画した。
【説明と同意】本課題で行う全ての動物実験は、NIHのガイドライン(National Institutes of Health Publication No. 86-23、1985年改訂版)に準拠して行い、また森ノ宮医療大学動物実験倫理委員会の承認を得ている。さらに、各実験操作中に可能な限り動物の苦痛軽減を図るべく細心の注意を払うものとする。さらに、術前の動物飼育管理についても可能な限り動物に苦痛を与えない配慮(十分な給餌・給水、光・温度の適切な管理等)を行う。また、本研究はヒトを対象とした実験は行っていない。よって、個人情報、人体の損傷や生命に関わる事案の取り扱いはなく、人権等に関わる倫理上の問題は生じない。
【結果】SP、CGRP、 P2X3受容体に対して陽性を示す軸索終末の分布は以下のようになっていた。
SP:吻側のVpから尾側のVcにかけて、広く陽性終末を認めた。特にVcの表層においては高密度の陽性終末の集積を認めた。また、Voの背外側部とその内側の網様体でも陽性終末の集積を認めた。
CGRP:SPと同様に、吻側のVpから尾側のVcにかけて、広く陽性終末を認めた。特にVcの表層においては高密度の陽性終末の集積を認めた。SPとともに、VcとViの境界付近では、VcのI層に対応すると思われる領域に陽性終末の集積を認めた。
P2X3受容体:三叉神経感覚核群の吻側域では散在性にP2X3受容体陽性終末を認めた。しかし、Vcにおいては特に表層域で高密度のP2X3受容体陽性終末の集積を認めた。
【考察】以上の結果より、SP、CGRP、 P2X3受容体の何れについても、三叉神経感覚核群の全ての核に陽性終末を認めた。しかし、その分布密度は核によって異なっていた。従前の研究により、Vcが痛覚情報伝達に主要な役割を果たしていることが報告されており、今回SP、CGRP、P2X3受容体に陽性を示す神経終末がVcの辺縁亜核に高密度で集積していたことから、これらの領域が痛覚情報伝達に重要であることが確認できた。また、Vcの辺縁亜核のニューロンは視床に投射することが知られているので、SP、CGRP、P2X3受容体を発現する終末が、視床への痛覚情報伝達、すなわち痛覚の弁別機能に関与していることが予想された。しかし、SPとP2X3受容体について、三叉神経感覚根の線維では共存を認めないという報告もあり、SPとP2X3受容体を発現する終末の機能的意義について検討する必要がある。また、Vc以外でSP、CGRP、 P2X3受容体陽性を示した神経終末の機能的な意義についても検討の必要がある。
【理学療法学研究としての意義】本研究は摂食嚥下機能の遂行において重要な役割を担っている三叉神経系での感覚情報処理機構の解明を目指したものであり、摂食嚥下障害の理学療法学研究として有意義である

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© 2011 日本理学療法士協会
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