理学療法学Supplement
Vol.38 Suppl. No.2 (第46回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: PI2-067
会議情報

ポスター発表(一般)
膝前十字靱帯に対する荷重除去と振動刺激の影響
金村 尚彦森山 英樹石川 翔大本田 祐輔小越 悠行ハディ 華今北 英高武本 秀徳五味 敏昭高柳 清美
著者情報
会議録・要旨集 フリー

詳細
抄録

【目的】膝関節の静的安定性に関与している前十字靱帯(以下ACL)は,運動時に脛骨の前方突出を引き起こさないようにストッパーの役割を果たしている.下肢の傷害や関節固定,寝たきりにより荷重除去状態となり,廃用性筋萎縮等の関節剛性の低下から,制動として働く靱帯の負担が増大し,靱帯自体の損傷が引き起こされることが推測される。先行研究により,振動刺激による筋萎縮の防止されることが報告されているが,本研究では振動刺激に対する前十字靱帯への影響を検討することを目的とした.
【方法】Wistar系雄性ラット(10週齢)18匹を使用した。(1)後肢懸垂を行う後肢懸垂群(suspension:以下SUS群)、(2)振動刺激群は後肢懸垂の過程で毎日15分間振動刺激与える群(vibration:以下VIB群),(3)自由飼育群(control:以下 CON群)とした。各実験期間は2週間とした.
荷重除去の方法は,Moreyの方法を用いた.後肢の活動は荷重以外制限せず、関節運動は自由に行わせた。餌・水の摂取は自由とした。振動刺激は, シートマッサージャーS EM-2535(3600RPM ツインバード社製、新潟)を用いた.実験終了後、膝関節を大腿骨-前十字靭帯-脛骨複合体を採取した。膝関節は、前十字靭帯を残し関節包、後十字靱帯、半月板などの軟部組織は切除した。物性試験を行うために、大腿骨と脛骨骨端をレジンにて固定した。試験を行うまで、ディープフリーザーにて保存した。次に膝関節を屈曲30°位にて、精密万能試験機オートグラフAG-I100kN(島津製作所、京都)に固定した。破断試験ではcrosshead speed を5mm/minとして、得られた荷重-変位曲線より破断荷重、stiffnessを求めた。破断荷重とstiffnessについて,一元配置分散分析と多重比較, Scheffe法を用い比較検討した.
組織学検討では,膝関節を4%パラホルムアルデヒドで固定後,EDTAにて20日間 脱灰し,OCTコンパンウドにて凍結包埋した.クリオスタットにて10μmに薄切した.その後 H-E染色, 免疫組織化学染色として, 抗I型コラーゲン(Sigma C7805 1:8000), 抗III型コラーゲン(Sigma C8000 1:8000)を用い,ABC法を行った後,DABで発色,光学顕微鏡で観察した.
【説明と同意】本実験は,本学動物実験倫理審査委員会の承認を得て行った.
【結果】物性試験において,静的引っ張り試験における最大破断荷重では,3群間に,有意差を認めた(P=0.01).多重比較検定により,CON群と比較して,SUS群,VIB群共に有意に減少した(p<0.05).SUS群とVIB群では差を認めなかった.荷重-変位曲線より求めたstiffnessでは,3群間に有意な差を認めなかった.組織像においては,H-E染色より,SUS群やVIB群では,線維の配列が乱れているものが観察された.免疫組織化学染色において,I型コラーゲン,III型コラーゲンともに3群間の染色性に相違を認めなかった.
【考察】ACLは、力学的情報を感知し、力学的変形を最小限に抑えるための関与している細胞が存在する。靱帯の強度に関与しているコラーゲンタイプ1の合成が増加し、細胞形態は紡錘形に変化し、張力負荷に対し、垂直方向に配列する。本研究において後肢懸垂による下肢の荷重除去では,靱帯への力学的刺激が減少し,その結果 物性試験の結果より,靱帯力学的強度が減少することが示唆された.また振動刺激では,CON群までその強度が維持されない結果となった.H-E染色像より,荷重を除去すると,線維の配列に乱れが生じた.しかし,懸垂中,荷重を行う群と対象群を比較すると,破断荷重には変化を認めなかった.組織変化と破断荷重との関連を今後明らかにする必要がある.
また靱帯への力学的変化によるものに加えて,関節への血流量や関節液の循環の変化が生じている可能性がある。不動化や尾部懸垂により,膝関節内血流や関節液の循環障害を招く可能性が先行研究により,示唆されている. このことから靱帯自体への酸素や栄養供給にも影響を及ぼし,それが靱帯の力学的特性の変化を引き起こした可能性も予想された。
【理学療法学研究としての意義】ACLの力学強度を維持するには、靱帯が力学的刺激を受けることが重要である.本結果では,荷重除去により,靱帯の物性が低下することが示唆された.筋萎縮に対する影響だけではなく,靱帯自体への運動療法効果を明らかにする事で,理学療法の効果を明らかにすることが重要であると考える.また本研究で行った振動刺激条件の検討を行い,靱帯への影響を明らかにする必要がある.

著者関連情報
© 2011 日本理学療法士協会
前の記事 次の記事
feedback
Top