理学療法学Supplement
Vol.38 Suppl. No.2 (第46回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: PI2-083
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ポスター発表(一般)
末梢神経電気刺激が脳の可塑性変化に与える影響
安静時と随意収縮時における検討
齊藤 慧山口 智史田辺 茂雄菅原 憲一横山 明正近藤 国嗣大高 洋平
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抄録
【目的】
末梢神経電気刺激(peripheral electrical nerve stimulation: ES)が,脳の可塑性変化を引き起こすことが報告されている(Chipchase LS et al,2010).脳の可塑性変化を起こすために必要な刺激時間は30分という報告(Charlton et al,2003)や120分という報告(Khaslavskaia and Sinklaer et al,2005)がある.しかしながら,実際には中枢神経麻痺患者においては,数分というようなより短時間のESにおいても随意運動の改善などの効果を認めることを経験する.これまでの報告では,安静時の運動誘発電位(MEP)のみの評価であり,随意収縮時のMEPを用いた評価を行った報告はない.実際の臨床場面で経験する,短時間でのES効果を検証するうえでは,随意運動時のMEPを用いた評価を行うことが重要であると考えられる.本研究の目的は,電気刺激による皮質脊髄路への影響を安静および随意収縮時のMEPを用いて検討することである.
【方法】
対象は,健常成人10名(男性7名,女性3名,年齢26.7歳±3.1)とした.電気刺激は,電気刺激装置Trio300(伊藤超短波社製)を使用し,肘関節部で正中神経を刺激した.刺激強度は感覚閾値の1.2倍,刺激周波数は30Hz,パルス幅は300μsecとした.刺激サイクルは5秒on-10秒off,刺激時間は60分とした.評価は,TMSによる橈側手根屈筋(FCR)と橈側手根伸筋(ECR)のMEPとした.TMSには,Magstim200(マグスティム社製)および8字コイルを用いた.MEPの記録には,Neuropack-MEB2000(日本光電社製)を用いて,サンプリング周波数10kHzで計測した.TMSの刺激強度は,安静時閾値を50μVのMEPが50%以上の確率で出現する強度とし,刺激強度は安静時閾値の1.2倍とした.MEP測定条件は,1.安静,2.FCRにおける最大随意収縮の5%(5%MVC),3.FCRにおける最大随意収縮の20%(20%MVC)の3条件とした.随意収縮条件は,等尺性収縮にて実施した.計測はES前とES5分後,10分後,以降10分毎に実施し,刺激が終了する60分後まで合計8回実施した.また各測定条件は,2日以上の間隔をあけランダムに実施した.解析は,FCRおよびECRの最大MEP振幅を算出後,それぞれの測定条件におけるES前のMEPで除して,刺激時間毎の増加率を算出した.統計解析は,反復測定分散分析およびBonferroni検定を用いて検討した.有意水準は5%未満とした.
【説明と同意】
本研究は東京湾岸リハビリテーション病院倫理審査会の承認を得て行われた.実験の内容について説明後,書面にて同意の得られた対象者に実験は行った.
【結果】
FCRにおいて,すべての測定条件でMEP増加率は,刺激時間が長くなるに従って,増大していく傾向を認めその最大値には違いがなかった.一方,測定条件別の特徴としては,MEPの増大を認めるまでの時間が異なった.5%MVCでは,ES前と比較し,ES50分後およびES60分後に有意な増大を認めた(p<0.05).20%MVCにおいては,ES前と比較し,ES20分後から60分後まで有意な増大を認めた(p<0.05).ECRのMEP増加率には,一定の傾向は認めなかった.
【考察】
今回,刺激神経(正中神経)支配であるFCRにおいてES20分後から20%MVC時のMEP増加率,ES50分後から5%MVCのMEP増加率の増大が認められ,増加率の最大値では違いを認めなかった.本研究の結果から皮質運動野の可塑的変化は従来の報告よりも早く,少なくとも20分後から出現している可能性が示唆された.また,今回の結果から,ESの効果をMEPで評価する場合,随意収縮が強いほど,その効果が明らかになりやすいということが示唆された.
【理学療法学研究としての意義】
本研究は,ESによって脳の可塑性変化が生じるために必要な刺激時間を提示し,中枢神経疾患へのアプローチを考案する上で重要な示唆を与えると考えられる.
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© 2011 日本理学療法士協会
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