理学療法学Supplement
Vol.38 Suppl. No.2 (第46回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: PI2-084
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ポスター発表(一般)
運動ビデオ・ゲームを用いたバランスアプローチと足圧分布の関係
秦 一貴福留 清博(PhD)西 智洋川井田 豊吉本 隆治平田 敦志前田 誠
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抄録

【目的】
高齢者の運動機能向上などリハビリへの応用として,我々はバランス・コントロールを必要とする運動ビデオ・ゲームを使用して患者に能動的にバランス訓練を行ってもらい,市販のゲームであってもバランス能力の維持・向上に一定の有用性があることを報告してきた.従来の研究に多く見られる,外乱によるバランスアプローチと比較して,運動ビデオ・ゲームではバーチャルリアリティ(VR)を利用することで安全かつ簡便に行うことができる利点を有する.しかし,その有用性の発現メカニズムは未知のままである.そのメカニズムを理解するためには,VR空間内での人の反応,例えば,傾きや速度の変化をその中のCGキャラクターとして患者が視覚や聴覚にたよってどのようにコントロールするかを理解する必要がある.そこで今回は,既存ビデオ・ゲームと人との相互作用について,ゲームの映像・音声刺激に対する人の反応を足圧分布から解明できないか健常成人を対象とした研究を開始した.

【方法】
対象は健常成人6名(平均年齢25.2 ± 4.7歳)を被験者とした.足圧分布計(シロク社製)をサンプリング時間94 msとして用い,静止立位,自然歩行,および運動ビデオ・ゲーム(Nintendo Wii Fit,ヘディング(ゲーム1),コロコロ玉入れ(ゲーム2))の4群の足圧分布を28-2117フレーム測定した.そこから足底面の4ヶ所(母趾,第一中足骨頭,第五中足骨頭,踵骨隆起)について抽出した足圧の最大値および平均値を求めた.それぞれについて,4群間(静止立位,自然歩行,ゲーム1,ゲーム2)を多重比較検定(有意水準5%未満)した.

【説明と同意】
予め,説明や同意に関する方法を含む本研究計画について鹿児島大学医学部疫学・臨床研究等倫理委員会の審議を受け承認(第171号)を得た.その上で,被験者に説明文書を用いて書面および口頭で,研究の目的他,参加が強制ではないこと等を説明した.被験者に同意が得られた場合のみ,同意書に署名を得て研究に参加していただいた.

【結果】
1)足圧最大値.左右の第五中足骨頭および踵骨隆起の足圧において,両運動ゲームは静止立位より有意に大きかった.左母趾の足圧では,ゲーム2は静止立位より有意に大きく,また右第五中足骨頭の足圧において,ゲーム1は自然歩行より有意に大きかった.
2)足圧平均値.左第五中足骨頭の足圧において,ゲーム2は静止立位および自然歩行より有意に大きかった.

【考察】
運動ビデオ・ゲームは,大きな動作を必要としないため限られた空間内でも簡便に実施できたが,足底面に加わる圧力は静止立位や自然歩行より大きい部位が存在した.また,ゲームの違いにより圧力の変化が足底面の部位により異なる傾向が見られた.ゲーム1の特徴として被験者の体幹の左右への比較的早い運動が見られるため,左右の第五中足骨頭および踵骨隆起の足圧が大きいことは妥当と考えられる.一方,ゲーム2では前後への比較的ゆっくりとした運動が見られる.左母趾の足圧が静止立位より大きいことから,母趾にはメカノレセプターが多く分布していることも影響していると思われる.このようにゲームの違いにより,異なる視覚,聴覚からの入力信号が足圧分布に影響する可能性が示された.立位保持や歩行動作に匹敵あるいは上回りかつ広範囲に渡る変化に富んだゲーム中の足底感覚への入力(足底部位の圧力上昇)は,末梢へはメカノレセプターの賦活として,中枢へは運動学習の教師信号として,再学習により,低下した身体機能に見合った内部モデルの修正・再構成に繋がる可能性があり,今後患者・高齢者のゲーム時の運動についても明らかにしていく予定である.

【理学療法学研究としての意義】
リハビリテーションの各段階で,セラピストには患者を正しく評価することが求められている.特に,医療行為にエビデンスが求められ,数値化できる科学的データが必要とされる現在に至り,様々な評価システムを開発し活用していく事も重要となってきた.特に評価が可能な家庭用ビデオ・ゲームを提供できるならば,レクリエーションのような娯楽性だけではなく,リハビリテーションにおいてさえ活用できる可能性を秘めている.

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© 2011 日本理学療法士協会
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