理学療法学Supplement
Vol.38 Suppl. No.2 (第46回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: PI2-086
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ポスター発表(一般)
壁面との位置関係による視覚定位付けが静止立位姿勢の重心動揺におよぼす影響
遠藤 博山本 泰三箱守 正樹肥田野 義道須藤 聡井上 桂輔椚山 瑛莉郡司 麻美望月 拓郎
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抄録

【目的】
姿勢と平衡機能に関する神経制御はシステム理論により、活動は個体が運動課題と環境の交流により生ずると説明されている。鈴木は健常者を354cm×453cmの広さの実験室内で、平衡機能計の中心から壁までの距離を36cm、50cm、100cm、150cmとして重心動揺を計測したところ、動揺軌跡の面積が、壁から離れるほど大きくなり、壁が準拠点あるいは枠組みとして生体に大きな影響を与えているのではないかと報告している。山田らは虚弱高齢者を対象に、支持物のない条件と平行棒内条件で立位姿勢の重心動揺を3軸加速度計で計測したところ、平行棒内条件で姿勢動揺が減少していたと報告している。本研究の目的は、前壁と左右の壁からの立ち位置を変えて視覚的条件に変化を与え、静止立位における重心動揺の変化を検討することである。
【方法】
対象は特別な既往のない健常成人12名(男性6人、女性6人、平均27.8±4.3歳、身長164.5±11.1cm、体重58.8±13.8kg)。約3m×3mの部屋内に壁面からの距離により5箇所を設定し、その位置での開眼(被験者の視軸水平位につけられた壁の固視点を凝視)での重心動揺を計測した。5箇所は、前壁から0.5m左右の壁の中央(以下、位置A)、前壁から1.0m左の壁から0.5m(以下、位置B)、前壁から1.0m左右の壁の中央(以下、位置C)、前壁から1.0m右の壁から0.5m(以下、位置D)、前壁から1.5m左右の壁の中央(以下、位置E)とした。計測時間は30秒とし、各計測の間には1分間の休憩を設け、疲労による影響を取り除いた。5箇所の立つ順番については、ランダムとした。重心動揺はアニマ社製GRAVICODER GS-31P を用いて測定し、課題ごとの重心動揺データ(総軌跡長、単位面積軌跡長、外周面積)を比較した。統計処方は分散分析後にポストホックテストを行った。有意水準を0.05とした。
【説明と同意】
実験に先立ち、対象者には研究内容を口頭にて十分説明を行い、同意を得た。
【結果】
総軌跡長は、位置A:26.63±6.11cm、位置B:29.83±9.17 cm、位置C:29.69±8.16cm、位置D:29.75±10.17cm、位置E:31.40±3.80cmであった。単位面積軌跡長は、位置A:30.22±11.25cm2、位置B:25.24±10.80 cm2、位置C:25.34±10.52cm2、位置D:21.75±9.55cm2、位置E:17.60±5.86cm2であった。外周面積は、位置A:1.13±0.97cm2、位置B:1.57±1.38cm2、位置C:1.72±1.96cm2、位置D:1.99±2.00cm2、位置E:2.21±1.84cm2であった。位置Aの単位面積軌跡長より位置Dが短く、位置Aより位置Eが短かった。
【考察】
単位面積軌跡長は立ち直りの緻密さを表す独立した指標として確かめられている。姿勢を維持する手がかりとなる視覚情報が遠いことで、立ち直りの少ない制御をすると単位面積軌跡長は短くなる。位置Eの単位面積軌跡長が位置Aより短いのは、前壁からの距離が離れたことが要因と考える。姿勢を維持する手がかりとなる視覚情報が近いほど姿勢が安定するとした鈴木の報告と同じ傾向を示した。位置Dの単位面積軌跡長は、位置Aより短く、それ以外の位置B、C、Eとの差がなかった。前方の壁の前後の位置に関わらず右壁に近い立ち位置でより立ち直りを少ない姿勢制御をしていと考える。開眼中の課題は、固視点を凝視し、中心視野が固定されることから、周辺視野が影響していると考える。左の壁に近い位置では変化なく、右壁に近い立ち位置だけが有意であったので、利き目が影響しているのではないかと考える。
【理学療法学研究としての意義】
立位などの練習場面の設定について、視覚的定位を意識した環境に配慮する必要性を示唆する。初めての立ち上がりや立位練習時は、前方の壁に近い位置で実施した方が動揺の少ない姿勢制御をとることで安定した姿勢をとれる可能性があると考える。

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© 2011 日本理学療法士協会
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