理学療法学Supplement
Vol.38 Suppl. No.2 (第46回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: PI2-085
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ポスター発表(一般)
圧迫が血流と脊髄運動神経興奮性に与える影響
三浦 和黒澤 和生廣瀬 真人鈴木 知也
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キーワード: 圧迫, H反射, ヒラメ筋
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抄録

【目的】
臨床で徒手などの圧迫を使った理学療法治療の効果を実感することが多い。過去の研究でも圧迫のさまざまな効果が報告されている。中でも,Robichaudら(1992)は,エアースプリントを5分間持続的に使用し,健常者・脳血管障害者・脊髄損傷者のヒラメ筋脊髄神経興奮性低下への効果を証明した。脊髄運動神経興奮性は痙縮を測るとされており、この結果は、痙縮抑制への可能性を示した。しかし、より効果のある圧迫の強度、時間を数値化した研究は行われていない。根拠に基づいた理学療法治療を行う為、先行研究をもとに、圧迫強度と時間時間を変化させたときのヒラメ筋脊髄運動神経興奮性と下腿血流への影響を検証することを目的に研究を行った。
【方法】
研究1・圧迫強度の変化による下肢血流量の変化
対象は、健常者16名(男性8名・女性8名,平均年齢20.5±1.5歳,167.5±10.5cm、58.5±9.5kg)。姿勢は背臥位、股関節0度、膝関節屈曲20度、足関節軽度底屈位とし、胸部と踵部に枕を設置した。内果後方の後脛骨動脈で下腿の血流量をデジタル超音波診断装置EUB-7500で測定。大腿用血圧計カフの中心を下腿中心に合わせ装着し,水銀血圧計にて圧迫10、30、50、100mmHgをランダムな順で5分間実施し、3分に血流量(Pv値)を測定した。それぞれの圧迫後は5分間休憩をおき,測定位置には印をつけ、同じ位置で測定を行った。
研究2・圧迫強度と圧迫時間の変化による下肢筋の脊髄運動神経興奮性の変化
研究1と同様の対象者に同姿勢で行った。利き側のヒラメ筋に電極を皮膚処理後、装着した。圧迫のない状態で膝窩の脛骨神経を1Hzで刺激し、誘発筋電位検査装置MEM2404にてM波の最大振幅とH反射の最大振幅を測定した。研究1と同じ位置に水銀血圧計の大腿用カフ(21cm幅)を装着し、圧迫強度10、30、50、100mmHgに大腿カフをふくらませ、それぞれ圧迫後1分・3分・5分にH反射の最大振幅の測定を行った。圧迫の4回は血流量測定時と同様のランダムな順で行い、それぞれの圧迫後は5分間休憩を入れた。脊髄運動神経興奮性をみるためにH反射の最大振幅とM波の最大振幅の比(Hmax/Mmax) を使用した。
研究1・2ともに、SPSSを用いて反復測定による1元配置の分散分析、多重比較(Bonferroni)を行なった。
【説明と同意】
対象者全員に対して事前に説明及びアンケート記入をしてもらい基礎情報の収集と研究への了承を得てから測定を実施した。
【結果】
研究1では、0、10、30、50 mmHgと100mmHgの間に有意な差が認められ、100mmHgの圧迫は血流量を大きく減少させることが明らかになった。10,30,50mmHgでの血流量は、0mmHgと有意差をみとめなかった。
研究2では、30mmHg3分,30mmHg 5分,50mmHg3分,50mmHg 5分,100mmHg1分,3分,5分と0mmHgの間に有意な差が認められ、30mmHg,50mmHgと100mmHgとで、脊髄運動神経興奮性を大きく低下させることが明らかとなった。脊髄運動神経興奮性は、圧迫時間が長いほど低下をみせた。
【考察】
10,30,50mmHgの圧迫では、圧迫を加えていない時と後脛骨動脈の血流量の差は認められず、血流阻害による二次的障害が生じる危険性は低いことが証明された。100mmHgの圧迫は、圧迫をくわえていない時と比較して血流量を大きく低下させ、下腿の充血や萎縮、冷感、疼痛を生じさせる可能性があった。また、30mmHg3分,30mmHg 5分,50mmHg3分,50mmHg5分、100mmHg1分、100mmHg3分、100mmHg5分の圧迫は、Robichaud による先行研究と同様にヒラメ筋脊髄運動神経興奮性の低下を引き起こした。
よって、30mmHg3分,30mmHg 5分,50mmHg3分,50mmHg5分の圧迫は血流を阻害せず、ヒラメ筋脊髄運動神経興奮性を抑制する効果をもつことがわかった。最も抑制効果がある圧迫強度と時間は、50mmHg5分であった。ゆっくり時間をかけて筋を伸張する圧迫は、靭帯にある深部感覚受容器であるゴルジ腱器官からIb繊維の興奮をひきおこし、脊髄内の介在ニューロンを介して運動神経を抑制させたと考えられる。
【理学療法学研究としての意義】
血流を阻害せず、ヒラメ筋脊髄運動神経興奮性を最も低下させる圧迫強度と時間は、50mmHg 5分であり、臨床において、ヒラメ筋の効果的なストレッチや痙縮抑制などに応用することが可能と考えられる。
脳血管障害者や脊髄損傷者への効果を検証していくことが今後の課題である。

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© 2011 日本理学療法士協会
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