理学療法学Supplement
Vol.38 Suppl. No.2 (第46回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: PI2-088
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ポスター発表(一般)
ビデオを用いた運動観察がバランス学習に及ぼす影響
笠原 伸幸冷水 誠浅井 哲也富田 純也黒川 愛小辻 雄介
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抄録
【目的】
運動学習においては身体練習だけでなく、他者を観察するという観察学習によってさらなる効果があるとされている。バランス学習においても、Sheaら(1999)が交互練習による観察学習が効果的であると報告している。しかしながら、これらの報告はいずれも、他者を観察する条件としない条件の比較であり、自己のパフォーマンス観察による効果は検討されていない。運動学習には他者観察だけでなく、適切な外在的フィードバックの付加が運動学習を高めるとされる。その方法として,自己のビデオ映像観察によるフィードバック効果が報告されている。しかしながら、これらの報告では自己のパフォーマンス観察であり,他者の観察による学習効果との比較はされていない。これらのことから、効果的な運動学習において観察学習としての他者観察と、フィードバック効果による自己観察ではどちらが効果的であるかは検証されていない。そこで、本研究の目的は健常成人を対象として、ビデオ映像を用いて他者観察と自己観察のどちらがバランス学習に効果的であるかを検証することである。

【方法】
対象は健常成人30名(男性13名、女性17名、平均年齢30.2±6.4歳)をとし、対象者をコントロール群、自己観察群、他者観察群の3群に分けた。課題は側方への不安定なバランスボード(DIJOC BOARD 酒井医療)上の立位にて、できる限り長くバランス維持(DIJOC BOARDの両端が床につかないように)することとした。立位肢位の設定は被験者の肩幅を足幅とし、視線は3m先の目標物とした。課題の施行時間は30秒間とし、学習過程として課題を5回施行した。各課題間には一分間の端坐位での休憩をはさんだ。
コントロール群は観察およびフィードバック情報を与えずに課題遂行と休憩を5回繰り返した。自己観察群は課題間の休憩中に直前に自己が行ったパフォーマンスのビデオ映像を観察し課題を繰り返した。他者観察群は課題間の休憩中に他者が課題を行っているビデオ映像を観察し課題を繰り返した。測定項目は課題中にDIJOC BOARDの両端が床に接していない最長時間とし、撮影したビデオ画像から計測した。測定時期は5回の練習前に初期評価として行い、練習後に最終評価を行った。さらに、持ち越し効果を見るために翌日にも評価を行った。統計学的分析は、学習段階および群について二元配置分散分析を用い、多重比較にはbonferroni法を用いた。

【説明と同意】
対象者にはあらかじめ研究の趣旨を十分に説明し、同意を得た。

【結果】
最長時間について,学習段階において主効果が認められたが(p<0.05)、群における主効果(p=0.86)および交互作用(p=0.47)は認められなかった。多重比較の結果、自己観察群の初期評価と最終評価の間のみに有意な差が認められた(p<0.05)。コントロール群および他者観察群では有意な差は認められなかった。持ち越し効果については各群とも有意な差は認められなかったが、他者観察群にて高い傾向がみられた。

【考察】
今回の結果では、バランス学習においては自己観察のみに学習効果が認められた。このことは、自己観察では視覚フィードバックの情報により自己の経験とのずれを明確に認識することができ、修正した自己のイメージをえがくことが学習を効果的にしたと考える。これに対して、他者観察では先行研究にあるような有意な学習効果が認められなかった。このことは、他者観察による視覚情報ではフィードバック情報とならず、自己の経験とマッチングしなかったことが効果的な学習につながらなかったと考えられる。しかし、コントロール群と比較すると初期評価と最終評価にて学習効果がある傾向を示していたため、被験者数の少なさが影響したことも考えられる。また、持ち越し効果について、他者観察群では統計学有意差は認められないものの、自己観察群と比較して高い傾向がみられたことから、今後さらなる検証が必要であると考える。

【理学療法学研究としての意義】
本研究の結果から、さまざまな動作獲得の基盤となるバランス能力の向上に対する訓練の一つとして、ビデオを用いた自己運動観察法が有効である可能性を見いだすことができた。今後、バランス障害を有した患者に対する効果を検証していくことで、特別な機器を必要としない臨床上有用なバランス学習における介入手段への発展において重要な意義があると考える。
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© 2011 日本理学療法士協会
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