理学療法学Supplement
Vol.38 Suppl. No.2 (第46回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: PI2-094
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ポスター発表(一般)
ジャンプパフォーマンスと下肢関節スティフネスとの関連性
武野 陽平建内 宏重永井 麻衣市橋 則明
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抄録
【目的】
走行やジャンプ等では、求心性収縮の直前に遠心性収縮をすることで、筋や腱に弾性エネルギーを蓄積し、そのエネルギーを利用することで純粋な求心性収縮よりもパワー出力を高め、運動効率を向上させている。この筋活動様式を利用する機能はSSC(Stretch-Shortening Cycle)と呼ばれている。SSCを効率的に利用するためには適度な下肢のスティフネスが重要と考えられている。下肢のスティフネスとは、下肢全体をバネととらえて算出される硬さを示す指標である。スティフネスが高いと硬いバネで、低いと柔らかいバネであることを意味している。先行研究では、下肢のスティフネスとジャンプパフォーマンスとの関連性が調べられており、スティフネスを適度に高めることでパフォーマンスは向上するとされている。しかし、股・膝・足関節のそれぞれの関節スティフネスがどの程度関与しているのかは明らかでない。
本研究の目的は、ジャンプパフォーマンスと下肢全体のスティフネスおよび各関節のスティフネスとの関連性を明らかにすることである。
【方法】
対象は下肢に明らかな整形外科的および神経学的疾患を有していない健常若年者8名(男4名、女4名、年齢:21.0±1.0歳、身長:168.3±9.5cm、体重:59.2±8.1kg)を対象とした。測定肢は支持脚(ボールを蹴る際の支持側と定義)とした。
動作課題は両脚でのカウンタームーブメントジャンプとし、できるだけ高く跳ぶよう教示した。また、動作中は両手を腹部の前で組ませた。十分な練習を行った後5回測定した。計測には、三次元動作解析装置(VICON 社製;サンプリンク周波数 200Hz)と床反力計(Kistler 社製;サンプリンク周波数 1000Hz)を用いた。マーカーはVICON社のPlug-in-gait full bodyモデルに準じて35点に貼付した。身体重心位置・加速度垂直成分、床反力垂直成分、および股・膝・足関節の関節角度と関節モーメントを算出した。また、下肢全体のスティフネスおよび各関節スティフネスは減速期(運動開始後、重心加速度が上向きになった点から重心位置が最下点に達するまでと定義)から算出した。下肢全体のスティフネスは重心移動距離と床反力モーメントの関係における近似直線の傾きとし、各関節スティフネスは関節角度変化と関節モーメントの関係における近似曲線の傾きと定義した。ジャンプパフォーマンスは安静立位姿勢における重心位置とジャンプ中の重心最高点の差とした。
統計処理はPearsonの相関係数を用い、測定したすべての試行について、ジャンプパフォーマンスと下肢全体のスティフネス、股・膝・足関節スティフネスとの関係を調べた。なお、相関関係の分析は、男女別に行った。有意水準は5%とした。
【説明と同意】
全対象者に対し、本研究の目的と内容を説明し、参加への同意を得て実施した。
【結果】
ジャンプの高さは36.7±5.2(男:41.2±3.2、女32.4±2.0)cm、下肢全体のスティフネスは1.3±0.6(男:0.9±0.2、女1.6±0.7)N/m、股関節スティフネスは3.2±1.1(男:3.4±1.5、女3.1±0.8)Nm/deg、膝関節スティフネスは1.9±1.4(男:2.4±1.9、女1.5±0.7)Nm/deg、足関節スティフネスは4.7±1.6(男:4.7±2.0、女4.8±1.1)Nm/degであった。
男性では、ジャンプパフォーマンスは下肢全体のスティフネス(r=0.503,p=0.033)および股関節スティフネス(r=0.759,p<0.001)と有意な相関関係を認めた。しかし、ジャンプパフォーマンスと膝・足関節スティフネスとの相関は無く、女性ではジャンプパフォーマンスと下肢全体および各関節のスティフネスには関係がみられなかった。
【考察】
本研究の結果では男性においてジャンプパフォーマンスと下肢全体のスティフネスとの間に正の相関がみられた。これはジャンプの予備動作としてしゃがみ込んだ時に下肢を硬いバネとして使えるほど高く跳べることを意味している。また、ジャンプパフォーマンスと股関節スティフネスに相関がみられたことから、特に股関節の剛性を適度に高めることがジャンプパフォーマンスにおいて必要であると考えられる。
女性では、SSCを効果的に利用できていない人が存在したために結果が出なかった可能性が考えられる。
【理学療法学研究としての意義】
本研究では下肢全体のスティフネスと股関節スティフネスがジャンプパフォーマンスに影響を与えることが明らかとなった。本研究結果は、ジャンプパフォーマンスの改善に向けたトレーニング方法の開発に重要な示唆を与えるものである。
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© 2011 日本理学療法士協会
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