理学療法学Supplement
Vol.38 Suppl. No.2 (第46回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: PI2-093
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ポスター発表(一般)
周期性の認識に基づく効率的な運動中に呈示される異なる刺激間隔が筋電図反応時間に及ぼす影響
刺激間隔の相違による検討
藤原 聡伊藤 正憲嘉戸 直樹鈴木 俊明嶋田 智明
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抄録
【目的】反応時間は、刺激が与えられてから動筋の筋活動が開始するまでの潜時である筋電図反応時間(以下EMG-RT)と筋活動が開始してから実際の運動が開始するまでの潜時である運動時間に分けられ、運動発現の機構を分析する手段としてよく用いられている。われわれはこの反応時間研究において、周期的な聴覚刺激を呈示し、一側の足関節背屈で応答させる反応時間課題を設定し、刺激回数の増加がEMG-RTに及ぼす影響について検討した。その結果、3 回目のEMG-RTが1回目と2回目に比べて短縮し、3回目以降のEMG-RTには差を認めなかった。このことから、3回目以降の聴覚刺激に対する運動では、刺激間隔に一定のリズムがあることを認識し、効率的に運動が出力されていると考察した。本研究では、周期性の認識に基づく効率的な運動中に3種類の異なる刺激間隔を呈示し、EMG-RTの変化について検討した。
【方法】対象は、聴覚に異常を認めない健常者17名(男性12名、女性5名、平均年齢24.1±3.8歳)とした。実験機器は、テレメトリー筋電計MQ8(キッセイコムテック株式会社)を使用し、10~1000Hzの帯域周波数で記録した。記録筋は右前脛骨筋とした。聴覚刺激の作成にはSoundTrigger2Plus(キッセイコムテック株式会社)、聴覚刺激と筋電図の記録には波形データ収録プログラムVitalRecorder2(キッセイコムテック株式会社)を用いた。聴覚刺激の刺激条件は、刺激周波数を900Hz、刺激強度は被験者の聴き取りやすい大きさに設定し、刺激回数は1試行につき6回の連続刺激とした。検査肢位は端座位とした。被験者には、聴覚刺激を合図に右足関節を素早く背屈する課題をおこなわせた。条件は、4つ設定した。条件1は入力する刺激間隔を1000msの周期的な刺激とし、条件2は5回目と6回目の間の刺激間隔のみを1200ms、条件3は5回目と6回目の間の刺激間隔のみを2400ms、条件4は5回目と6回目の間の刺激間隔のみを4800msに設定した。試行は各条件を5試行ずつ、合計20試行をランダムに実施した。課題前には十分な動作練習をおこなった。検討の対象とした試行は、各条件とも1試行目を除く4試行とし、4試行の平均値を個人の代表値とした。検討項目は、1回目のEMG-RTを対照群とし、2、3、4、5、6回目のEMG-RTとの比較とした。統計処理は、一元配置分散分析と多重比較検定(Dunnet法)を用いた。有意水準は1%とし、統計学的な有意差を判定した。
【説明と同意】被験者には、本研究の目的と方法、個人情報に関する取り扱いなどについて書面および口頭で説明し、同意書に署名を得た。
【結果】条件1は、1回目と比較して2、3、4、5、6回目のEMG-RTが有意に短縮した(p<0.01)。条件2、3、4は、1回目と比較して2、3、4、5回目のEMG-RTが有意に短縮した(p<0.01)が、6回目のEMG-RTには有意な差は認められなかった。
【考察】条件1は、1回目と比較して2、3、4、5、6回目のEMG-RTが有意に短縮した。これは、先行研究と同様に3回目までの周期的な聴覚刺激に対する運動で予測的な反応が導入され、3回目以降では運動が効率的におこなわれていたと考えた。条件2、3、4は、1回目と比較して2、3、4、5回目のEMG-RTが有意に短縮したが、6回目のEMG-RTには差は認められなかった。河辺らは、予測を生じさせるような刺激を与えながら途中でその予測を裏切る刺激を与える課題において、予測によって予め出された反応指令が脳内でキャンセルされ、正しい反応指令が新たに出されるため、EMG-RTは遅れると報告している。このことから、条件1と同様に3回目以降の周期的な聴覚刺激に対する運動は効率的におこなわれるが、5回目と6回目に一定間隔とは異なる間隔の聴覚刺激が呈示されたことで内部に確立した周期性が破綻し、予測に基づいた運動が困難となりEMG-RTが大きくなったと考えた。また、条件2、3、4の1回目と6回目のEMG-RTには有意な差は認められなかった。これは、効率的な運動の破綻には、一定間隔とは異なるということが影響し、5回目と6回目の刺激間隔の相違は影響しなかったと考えた。
【理学療法学研究としての意義】歩行動作を始め、反復した動作を獲得するための理学療法では、外部刺激を用いた動作練習を多数散見する。本研究より、効率的な運動を獲得する動作練習では、外部刺激の刺激間隔は一定間隔が重要である。また、効率的な運動の破綻には、一定間隔とは異なるということが影響し、刺激間隔の相違は影響しないことが示唆できた。
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© 2011 日本理学療法士協会
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