理学療法学Supplement
Vol.38 Suppl. No.2 (第46回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: OF1-004
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口述発表(特別・フリーセッション)
小学生の足指握力と身体機能の関係
福本 貴彦前岡 浩瓜谷 大輔岡田 洋平松本 大輔
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キーワード: 足指握力, 標準値, 小学生
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抄録

【目的】
足指の握力に注目されて久しい.足指握力は様々な運動機能との関係が報告されていることから,リハビリテーション,スポーツ選手のトレーニング,高齢者の運動機能向上など様々な場面で足指握力増強のためのトレーニングが行われており,もはや理学療法士にとっては欠かせない評価・トレーニング項目になったと言える.しかし,未だ足指握力の標準値というものが存在せず,評価者または評価機器それぞれの計測値を標準化し,比較検討をしているのが現状である.そこで,一昨年の本学術大会で足指筋力測定器を開発し,再現性が得られ,過去の報告と同等の結果が得られた旨を報告した.今回は,報告の少ない小学生の足指筋力に着目し,標準値の作成と運動機能との関係をみることを目的とした.

【方法】
対象は奈良県の小学生(1年生から6年生)758名(男児412名,女児346名).足指握力は,足指筋力測定器T.K.K.3360(竹井機器工業株式会社)を使用し,裸足で椅座位(股関節・膝関節90度屈曲位,足関節中間位)にて測定した.測定は左右2回ずつ行い,大きい方の値を採用した.評価値は学年・性別・左右で分け,それぞれの平均値と標準偏差を算出した.性別,左右,学年ごとの平均値の差は分散分析を行い,多重比較をした.
運動機能との関係は上記対象のうち3年生から6年生239名(男児143名,女児96名)を対象とした.運動機能の計測項目は手指握力,上体起こし,長座体前屈,反復横とび,50m走,25m走,20mシャトルラン,立ち幅跳.足指握力と運動機能の関係はpearson相関係数を算出した.
上述全ての有意水準は5%未満を有意とした.

【説明と同意】
今回の研究は畿央大学研究倫理委員会の承認(H22-5)を受け,実験にご協力いただいた小学校の教員に説明し,校長から書面で許可を得てから研究を実施した.

【結果】
足指握力は,1年生男児5.96±1.72[kg]女児4.98±1.74[kg],2年生男児7.45±1.85[kg]女児6.12±2.03[kg],3年生男児9.08±2.48[kg]女児7.21±1.95[kg],4年生男児9.99±2.49[kg]女児9.11±2.12[kg],5年生男児10.77±2.79[kg]女児10.05±3.31[kg],6年生男児12.10±3.25[kg]女児12.55±2.53[kg]であった.左右,また性別間で足指握力には有意差はなかった.学年別では有意差が見られ,高学年になるにつれ足指握力は有意に強くなっていた.
足指握力と運動機能の関係は,手指握力(r = 0.59, p < 0.01),反復横とび(r = 0.28, p < 0.01)50m走(r = -0.19, p < 0.05),25m走(r = 0.39, p < 0.01),立ち幅跳(r = 0.43, p < 0.01)との間に有意な相関が見られた.

【考察】
足指握力の標準値作成については,学年・性別で分けると1群が50名程度と少ない被験者数であったこと,また,同一地域の小学生であったことなど問題点もあるが,標準偏差も小さく有益な参考値の作成ができた.足指握力は学年が増すごとに増加しており,他の筋力同様に成長によるものと考える.男女間には有意差がみられないものの,低学年では男児の方が握力が強く,4~5年生でほぼ差がなくなり,6年生では女児の方が強くなっている.手指握力や膝伸展筋は全身筋力を反映しているとの報告があるが,体力標準値研究会の報告によると女性が男性の筋力値を上回る年齢はない.4年生以降の女児には第二次性徴が訪れ,身長・体重の平均値が男児を上回る年齢である.このタイミングで筋力値が女児優位になるということは非常に興味深い.
運動機能との関係は,成人での報告同様,瞬発力と敏捷性の指標との相関が見られた.短距離走について,50m走では負の相関,25mでは正の相関が認められた.小児期の走行には極短距離で足指握力が関与することがうかがえる.

【理学療法学研究としての意義】
医療,福祉,スポーツなど,様々なフィールドで注目されている足指握力であるが,未だ,標準値の作成には至っていない.計測方法の標準化と各年代,性別などの標準値の作成は急務の作業といえる.今回は同一県下の小学生であったこと,また,全体では800余名ではあるが,年代・性別に分けると50名程度と少ない被験者数であったが,小学生の足指握力の参考値にはなり得ると考える.また,極短距離走などの瞬発力との関係が示されたことは,小学生のトレーニングには非常に有益な情報が得られたといえる.

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© 2011 日本理学療法士協会
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