理学療法学Supplement
Vol.38 Suppl. No.2 (第46回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: OF1-003
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口述発表(特別・フリーセッション)
側方またぎ動作能力と身体機能の関係
女性要介護高齢者における検討
齋藤 崇志大森 祐三子大森 豊渡辺 修一郎
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抄録

【目的】
住宅の中には敷居や上がり框、階段など様々な物理的障害物が存在する。屋内を主な生活空間とする要介護高齢者にとって、これらの障害物に足をひっかけないよう移動する、すなわち、障害物をまたぐ動作は歩行や立ち上がり動作と同様に日常生活活動を行うために不可欠な動作である。高齢者に適した住宅環境整備の指針である「長寿社会対応住宅設計指針」は住宅に存在する障害物について、手すりを使用する条件のもと、40cm程度までの高さに設定することを推奨している。したがって、要介護高齢者が屋内で生活していくには、手すりを使用して少なくとも40cm程度の障害物をまたぐ動作能力を有していることが望ましいといえる。40cm程度の高さの障害物をまたぐ時には、障害物を側方からまたぐ動作(側方またぎ動作)が用いられることが多い。しかしながら、側方またぎ動作能力と身体機能の関係を調査した報告は見当たらない。
本研究では、女性要介護高齢者の側方またぎ動作能力と身体機能の関係を調査し、側方またぎ動作能力に影響を及ぼす身体機能要因を検討した。そして、40cmの障害物を側方からまたぐ動作に必要な身体機能のカットオフ値を明らかにすることを目的とした。

【方法】
対象者はデイサービスを利用している女性要介護高齢者186名の内、取り込み基準(脳血管疾患による著明な運動麻痺や神経筋疾患、認知機能低下を有さない者)を満たす女性要介護高齢者80名であった。対象者の平均年齢は84.5±5.5歳、介護度は要支援が26名、要介護1-2が45名、要介護3以上が7名、非該当が2名であった。主たる疾患の内訳は、整形外科疾患41名、呼吸循環器疾患18名、内科疾患10名、精神疾患が7名、その他が4名であった。
障害物を側方からまたぐ動作を「側方またぎ動作」と定義した。マルチハードルコーン(美津和タイガー株式会社)を一部加工し、10cmから50cmまで10cmごとに高さ調節(10、20、30、40、50cm)が可能な障害物を作成した。障害物には幅10cmの板を貼りつけた。身体の一部が障害物に接触し落下させることなく、手すりを使用し側方からまたぐことができる障害物の最大の高さを「側方またぎ動作能力」と定義した。
身体機能指標は6つの指標(握力、等尺性膝伸展筋力体重比(膝筋力)、股関節屈曲角度(股角度)、膝関節屈曲角度(膝角度)、開眼片脚立位保持時間(OLS)、Functional Reach Test(FRT))を用いた。統計解析は、側方またぎ動作に影響を及ぼす身体機能要因を明らかにするために重回帰分析を行った。年齢を調整変数として強制投入し、側方またぎ動作能力を従属変数、身体機能と身長の測定値を独立変数とするステップワイズ法を用いた。次に、重回帰分析により有意な関連が認められた独立変数を検定変数とした受診者動作特性解析(ROC解析)を行い、40cmの障害物の側方またぎ動作が可能であることを判別するためのカットオフ値を求めた。カットオフ値はYouden Index が最大となる値とした。統計解析には、PASW Statistics 18 を用い、両側検定にて危険率5%未満を有意水準とした。

【説明と同意】
本研究は桜美林大学研究倫理委員会の承認を得た(承認番号09011)。被験者に対して、事前に本研究の目的や内容等を説明し書面による同意を得た。

【結果】
重回帰分析の結果、側方またぎ動作能力と有意な関連が認められた項目は、年齢(β=-0.32)、膝角度(β=0.51)、FRT(β=0.34)であった。自由度調整済み重相関係数は0.57であった。膝角度とFRTを検定変数としてROC解析を行った結果、膝角度とFRTの曲線下面積はそれぞれ0.810(p<0.001)、0.731(p<0.005)であった。膝角度とFRTのYouden Indexが最大となる値はそれぞれ131度、19.3cmであり、全対象者80名をこの値をカットオフ値として判別した場合の判別精度は、膝角度は感度が87.3%、特異度が64.7%、FRTは感度が74.6%、特異度が70.6%であった。

【考察】
側方またぎ動作能力に影響を及ぼす身体機能要因は膝屈曲角度とFRTであり、40cmの障害物の側方またぎ動作の可否を判別するためのカットオフ値は膝屈曲角度131度、FRT19.3cmであると考えられた。

【理学療法学研究としての意義】
本研究の結果は、要介護高齢者が在宅生活を行うために必要な身体機能水準の目安を示していると考える。要介護高齢者に対する理学療法の臨床において、本研究で示されたカットオフ値は身体機能改善の目標値として有用であると考えた。

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© 2011 日本理学療法士協会
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