理学療法学Supplement
Vol.38 Suppl. No.2 (第46回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: OF1-007
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口述発表(特別・フリーセッション)
つま先荷重時の骨盤前後傾角度の変化が姿勢制御に及ぼす影響
岩橋 洋子仲保 徹永井 聡
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抄録

【目的】臨床では骨盤前後傾角度に個人差を認めることが多く、過剰な前傾や後傾は下肢や体幹など身体他部位へ影響するのではないかと感じることがある。我々は先行研究で、三次元動作解析装置を用いた歩行中の足部の動きについて分析したが、歩行中の足部内の動きは足部内だけで決定されているわけではないことがわかった。そのため足部へ影響を与える他の要因として骨盤前後傾角度があるのではないかと考えた。そこで今回は、つま先荷重時の骨盤前後傾角度を変化させた場合にどのような姿勢制御反応を示すかを把握し、身体各部位に波及する影響の有無を調べることを目的とした。
【方法】対象は、著明な整形外科疾患の既往のない21歳から23歳までの健常成人男性10名10肢とした。平均年齢は21.1±0.74歳であった。計測は、静止立位からのつま先荷重課題とした。つま先荷重は各対象者の自然立位、骨盤前傾位、骨盤後傾位の3条件で、各条件3回の計測を行った。順番は自然立位から始め、骨盤前傾位と後傾位はランダムに決定した。計測の際には「これからつま先荷重の計測を行います。踵が浮かず、バランスを崩さない範囲で行って下さい。つま先荷重をしたらその状態で合図があるまで(約3秒)止まっていて下さい」と口頭指示した。計測機器は、三次元動作解析装置VICON MX(赤外線カメラ8台)とAMTI社製床反力計2枚を使用した。計測周波数はVICONMXが100Hz, 床反力計は1000Hzとした。反射マーカーを身体各部位に貼付し、空間座標データを計測した。マーカー貼付位置は、第7頚椎棘突起、両側烏口突起、両側の上前腸骨棘、上後腸骨棘、右の腓骨頭、脛骨の内側上顆、内果、外果、踵骨の載距突起、腓骨筋結節、踵骨中央、第1、2、5中足骨頭、舟状骨、第2足先の計19点とした。得られた空間座標データは、データ解析用ソフトVICON BodyBuilderを用い、踵骨、下腿、骨盤、胸郭に局所座標系を定義し、下腿、踵骨、骨盤、胸郭の絶対角度、下腿と踵骨及び骨盤と胸郭の相対角度を算出した。解析の際には踵骨、下腿については各被験者静止立位時の角度を0度とした。踵骨、骨盤、胸郭に定義した局所座標系の原点間の前額面上の距離を算出した。舟状骨マーカーから舟状骨高、第1‐5中足骨マーカーから足幅、踵骨中央マーカーと第2中足骨足先のマーカーから足長を算出した。また右足内の床反力作用点(以下COP)を算出した。各対象者について、各条件3回の計測で得られたデータの中央値を代表値とした。統計学的解析は各条件間の比較を一元配置分散分析により行い、多重比較検定にはTukey法を用いた。なお、統計処理には、SPSSver.14.0を使用し、有意水準は5%未満とした。
【説明と同意】全ての対象者に対して、本研究の趣旨を説明し、本人に承諾を得た後に計測を実施した。
【結果】1)骨盤前後傾角度の結果 条件として指示した自然立位、骨盤前傾動作、骨盤後傾動作は各条件で有意な差があった。
2)他の算出項目については3条件間で有意差はなかった。
3)その他 踵骨、骨盤の原点間の前額面距離は骨盤後傾動作では自然立位や前傾動作に比べて骨盤がより前方に移動しやすい傾向があった。骨盤後傾動作では自然立位や前傾動作に比べ下腿が前傾、内側傾斜するものがいた。
【考察】本研究で条件設定した骨盤前後傾角度には条件間で有意差が認められた。これより、各対象者は課題動作を正確に遂行し、骨盤傾斜を変化させたつま先荷重ができていたと考えられる。しかし、踵骨、下腿、胸郭の絶対角度及び踵骨と下腿、骨盤と胸郭間の相対角度に有意差は認められなかった。また、骨盤前後傾角度を変えても各対象者の足部内でのCOP位置に有意差はなく、健常成人では身体上位のアライメントを一部変化させても他の部分はアライメントを大きく変化させずに同程度まで前方に荷重することが可能であることがわかった。一方で、個別の結果を見ると後傾動作では下腿の前傾、内側傾斜が増加する対象者もあり、他の条件時と同程度まで前方に荷重するための動きの変化と考えられる。有意差は認められなかったが、後傾動作は骨盤が前方に移動しやすい傾向があり、臨床で見る骨盤前方Swayした患者の多くが骨盤後傾位をしていることと関連していると推測された。
【理学療法学研究としての意義】骨盤は身体中央に位置し、下肢と体幹を結ぶ要となる部位である。そのアライメントを変化させた場合、身体各部位に影響が及ぶと考えていたが、健常例では他部位のアライメントを大きく変えずに対応可能であった。しかし、対応には個人差があり、いくつかの特徴的な傾向も見られ、今後臨床で患者を観察する場合の参考になりうると考える。

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© 2011 日本理学療法士協会
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