理学療法学Supplement
Vol.38 Suppl. No.2 (第46回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: OF1-008
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口述発表(特別・フリーセッション)
歩行立脚期の動揺性と寝返り動作における骨盤回旋運動との関連性
隠明寺 悠介戸田 晴貴井上 優津田 陽一郎
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キーワード: 歩行, 寝返り, 骨盤回旋運動
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抄録

【目的】
歩行時の骨盤回旋運動は,動揺性の少ない安定した歩行に重要とされ,Saundersら(1953)は,歩行立脚期の骨盤回旋運動は重心動揺を減少させる役割をもつと述べている.臨床においては,歩行時の骨盤回旋運動が乏しい患者に対し,その動きを促すため寝返り動作を利用することが有用であるとされている.しかしながら,寝返り動作の骨盤回旋運動が歩行立脚期の動揺性軽減と関係があるかについての検討は十分ではない.そこで,本研究は歩行立脚期の動揺性と寝返り動作の骨盤回旋運動との関連性を明らかにすることを目的とした.
【方法】
対象者は,既往に神経学的または整形外科的疾患の無い健常成人32名(男性14名,女性18名,平均年齢24.9 ± 2.0歳)とした.歩行立脚期の動揺性の評価は,MicroStone社製無線型3軸加速度計(サンプリング周波数200Hz)を第3腰椎棘突起部付近へ固定し,快適速度で10m歩行を行い,体幹加速度を記録した.同時に,矢状面より歩行の撮影と歩行所要時間を記録した.解析対象は定常歩行となる4歩目以降の4歩行周期とし,加速度波形の上下成分よりHeel ContactとToe Offを特定し,左右それぞれで1歩行周期分の立脚期Root Mean Square(以下RMS)を加算平均した値を動揺性の指標とした.RMS値の標準化のために,動画より抽出した2歩行周期の平均ストライド長と歩行速度の2乗値で除した.寝返り動作の骨盤運動パターンの評価は,MicroStone社製無線型3軸角速度計(サンプリング周波数200Hz)を用い,寝返る方向の反対側上前腸骨棘内側に固定し,骨盤角速度を記録した.得られた角速度波形より骨盤挙上・下制成分が回旋成分のピーク値の10%以上の高さを認めた場合骨盤動揺ありとし,左右の寝返り動作をそれぞれ骨盤動揺群と非動揺群の2群に分類した.その結果を基に,左右それぞれのRMS値を,同方向の寝返り動作の分類結果を用い2群間比較を行った.統計処理はMann-WhitneyのU検定を行い,有意水準は5%とした.
【説明と同意】
本研究は,ヘルシンキ宣言に基づき,対象者に事前に研究の内容について,十分に説明し同意を得た上で実施した.
【結果】
対象者32名の左右それぞれの寝返り動作を骨盤動揺群と非動揺群に分類した結果,右への寝返り動作は骨盤動揺群25名,非動揺群7名であった.左は骨盤動揺群22名,非動揺群10名であった.RMS値は,左右立脚期ともに,骨盤動揺群は,非動揺群よりも前後成分において有意に大きな値を認めた.また,上下成分,左右成分においては,左右立脚期ともに有意差を認めなかったが,いずれも骨盤動揺群は,非動揺群よりも大きな値を示す傾向を認めた.
【考察】
本研究の結果,寝返り動作時の骨盤動揺群は,非動揺群よりも,歩行立脚期の上下,左右,前後の動揺がすべて大きくなる傾向を認め,立脚期の動揺性と寝返り動作時の骨盤動揺の間に関連性を認めた.寝返り動作時に骨盤挙上・下制運動を生じるものは,下肢を利用した寝返り動作となっており,挙上・下制しないものよりも体幹回旋筋群を利用した骨盤回旋運動が行えていないことが推測された.そのため,歩行時も体幹回旋筋群を利用した骨盤回旋運動が生じず,歩行立脚期の動揺性が大きくなったのではないかと考えた.
【理学療法学研究としての意義】
歩行立脚期の動揺性と寝返り動作における骨盤動揺の間に関連性を示したことは,歩行障害を呈する症例に対して,寝返り動作を評価することの重要性が再確認されたと考える.しかし,本研究の結果は健常者を対象とした知見であるため,今後歩行障害を呈する症例における検討が必要である.

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© 2011 日本理学療法士協会
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