理学療法学Supplement
Vol.38 Suppl. No.2 (第46回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: OF1-015
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口述発表(特別・フリーセッション)
筋硬度計を用いた痙性評価の基礎的研究
諸角 一記市川 富啓杉本 淳烏野 大宇都宮 雅博芳川 晃久松澤 惠美半田 健壽楊箸 隆哉藤原 孝之
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抄録
【目的】
我々は,日米協同プロジェクトで身体計測評価システムについて開発を進めている.その一つである筋硬度計を用いた痙性筋評価について,測定値とModified Ashworth Scale(以後MAS)やPendulum testの間で関係性があり,痙性筋評価に応用できる可能性を把握している.今回は,その基礎的研究である健常成人群と痙性麻痺患者群における安静臥床,および頸部屈曲直後から安静時間経過時の筋硬度値変化について報告する.

【方法】
対象は痙性麻痺患者(以下,患者群)9名と健常成人(以下,健常群)10名とした.
患者群は,脳梗塞6名,脳出血1名,脳挫傷1名,くも膜下出血1名(右片麻痺4名,左片麻痺3名,不全四肢麻痺1名,両側片麻痺1名),平均年齢65.9歳(38-84歳),平均身長156.9±9.6cm,平均体重58.3±12.7kgであった.障害程度は,Brunnstrom stageIII-6名,StageIV-3名であり,MASは,0:1名,1:5名,1+:2名,2:1名であった.
健常成人群は女性5名,男性5名であり,平均年齢27.2歳(22-35歳),
平均身長168.7±7.4cm,平均体重58.8±7.4kgとした.
健常群と患者群の大腿直筋硬度(測定点は下前腸骨棘と膝蓋骨上縁を結んだ中点と大腿内外側縁を結んだ交点)を筋硬度計(Omnitest,Accelerated Care Plus社製)を用いて測定した.測定肢位は,体幹屈曲10度位のセミファーラー位で,下腿から下部を膝関節屈曲90度位で下垂位の安楽肢位.測定は,臥位直後と安静10分後,その後頸部屈曲20度10秒間保持直後に測定し,その時点から安静20分後まで1分間隔で合計23回測定した(所要時間合計30分間).
統計処理にはSPSS for Windowsを用いた.筋硬度の時間経過と頸部屈曲による変化にはFriedman検定を用い,その後の多重比較にはWilcoxonの符号付順位検定を用いた.また,患者群と健常群の比較にはMann-Whitney検定を用いた(有意水準は5%未満とした).

【説明と同意】
すべての対象者に研究の目的と内容,利益とリスク,個人情報の保護,参加の拒否と撤回などについての説明を行い,参加同意書には自筆による署名を得た.また,本研究は学校法人こおりやま東都学園研究倫理委員会に審査を申請し,研究実施の承認を得た.

【結果】
1. 患者群,健常群における臥床直後から安静10分,頚部屈曲,安静20分間の時間経過における筋硬度変化のFriedman検定結果は両群とも有意(p<0.01)に変化した.
2. 患者群の頸部屈曲直後から安静時変化をFriedman検定した結果では,有意差(p<0.01)が認められた.頸部屈曲直後の筋硬度44.4±6.0%を基準にした多重比較の結果は,1分後40±6.0%(p<0.05),5分後
39.1±2.8%(p<0.05), 10分後38.7±3.1%(p<0.01),20分後37.4±4.5%(p<0.01)であった.
3. 健常群における頸部屈曲直後からのFriedman検定の結果では,有意差が認められなかった.
4.患者群と健常群の筋硬度の比較では,有意(p<0.01)に患者群の値が高かった.

【考察】
1.患者群において,安静から頸部屈曲直後筋硬度値は有意(p<0.01)に上昇した.これは緊張性頸反射の影響と考える.片麻痺患者においては,頸部屈曲などの体位変化で筋の緊張が容易に変化する.今回の筋硬度観察から,それら筋緊張変化が定量的に捉えられる可能性が示唆された.
2.患者群の筋硬度変化は,頸部屈曲直後から安静時間5-6分で1回安定し,10分後さらに安定した.このことから,臨床で痙性筋評価目的に筋硬度測定を用いる際,安静順化時間には最低5分間が必要であり,実験など高い精度が求められる場合は10分間以上が適していると考える.

【理学療法学研究としての意義】
現在,脳卒中片麻痺患者の筋緊張評価は痙性筋に対する質的検査としてMASや他動的伸張法などがある.量的検査には脊髄内の興奮順位の指標であるH反射の検討や,加速度計を用いたもの,トルクマシンを使用した筋の弾性抵抗や弾性率などが検討されている.しかし,量的変化を捕らえる検査は,検査の手続が複雑で臨床場面での応用が難しい.臨床において量的筋緊張検査が簡便に行うことができると,患者の状態把握や治療効果判定が即時的に実施でき,治療方針立案に役立つ.また,理学療法治療のEvidence構築に役立つものと考える.
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© 2011 日本理学療法士協会
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