理学療法学Supplement
Vol.38 Suppl. No.2 (第46回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: OF2-016
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口述発表(特別・フリーセッション)
着座動作における運動力学的分析
若年者と高齢者の比較及び高齢者の特徴
朝原 早苗大平 浩気岡田 麻衣子齊藤 頼亮須藤 淳高橋 美菜子中村 潤哉村山 茉莉子渡邉 光
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抄録
【目的】着座動作は重要な基本動作である.高齢者はいすに強く臀部を着き,腰椎圧迫骨折など傷害を起こす例が指摘されている.妹尾らは高齢者にとって,立ち上がりと比較して難しい動作であると述べている.しかし,着座動作を困難にしている原因は運動力学的にまだあきらかでない.そこで本研究では,着座動作において若年者と高齢者の違いを比較し,さらに高齢者の特徴を運動力学的に分析することを目的とした.

【方法】対象者は健常若年者8名(男性,年齢21.4±1.9歳,身長171.1±4.2cm,体重63.8±4.2kg),健常高齢者8名(男性,年齢71.8±4.1歳,身長159.2±6.2cm,体重57.5±3.5kg)の2群とした.計測のため,12台の赤外線カメラによる3次元動作分析装置VICON612(VICON社製)と6枚の床反力計(AMTI社製)を使用した.被験者の身体に22個の赤外線反射マーカーを貼付した.着座動作に用いるいすの高さは40cmとした.
動作開始肢位は,矢状面で大腿中央が椅子の前端に位置し,膝関節90°屈曲位,足底全面接地で踵骨間距離30cmとなる立位とした.測定前にハンドヘルドダイナモメーターを用いて股関節伸展筋力を測定した.被験者は任意速度で高さ40cmのいすに計s3回着座をした.DIFF(臨床歩行分析研究会)によりデ‐タ処理を行い,体幹前傾角度,下肢関節モーメント,着臀後の椅子からの鉛直・進行方向の床反力,COP‐下肢関節中心の水平距離を求めた.各項目の最大値を代表値として体格差を考え,モーメントの大きさは身長・体重で,床反力は体重で除して正規化した.有意水準5%未満で対応のないt‐検定により若年者群と高齢者群を比較した.測定項目間の関係は相関係数によって検定した.

【説明と同意】対象者全員に倫理委員会で承認された研究手続きに従い,本研究の主旨を説明し同意を得た(承認番号:09-132)

【結果】若年者と高齢者の比較:着座時のいすからの鉛直・進行方向の床反力は2群間で差はみられなかった.若年者,高齢者群ともに着臀時に股関節,膝関節伸展モーメントが最大になった.股関節伸展モーメントの最大値は若年者で有意に値が大きかった(p<0.05).膝関節伸展モーメント,足関節モーメントには違いがなかった.3)股関節伸展モーメント最大時のCOP‐股関節水平距離が若年者で有意に大きかった(p<0.05).高齢者の分析:高齢者においていす鉛直方向の床反力と体幹前傾角度で強い負の相関(γ=‐0.95)があった.いす鉛直方向の床反力と股関節伸展モーメントには,強い負の相関(γ=‐0.83)があった.体幹前傾角度相関(γ=0.86)があった.7)股関節伸展筋力とCOP‐股関節水平距離において,強い正のとCOP‐股関節水平距離は,強い相関(γ=0.85)を示した.

【考察】若年者と高齢者群の間で,着座時のいすからの鉛直・進行方向の床反力に差はなかった.今回は両群とも健常者対象でやわらかく着臀可能だったためと考えられた. 2群間で違いがあったのは,股関節伸展モーメントの最大値,股関節伸展モーメント最大時のCOP‐股関節水平距離の2項目であった.池添らは,股関節筋群において加齢に伴う筋力低下率が大きいと報告している.そのため高齢者の着座動作では,股関節伸展モーメントが減少する傾向が示された.関節モーメントは床反力とレバーアームの積で表わされる.高齢者はCOP‐股関節水平距離(以下レバーアーム)を小さくすることで股関節伸展筋群の負担を軽減する着座動作になったと推察される.よって,高齢者は若年者と比較して股関節伸展モーメントが小さくなったと考えた. また,高齢者の着座動作では,股関節伸展モーメントが小さいといすからの鉛直床反力が大きくなり,着臀の衝撃が増加する可能性が示された.それにより,股関節伸展モーメントが重要と考えられた.今回の対象となった高齢者では,股関節伸展筋力が大きいとレバーアームが大きかったことより,体幹を前傾させることで生じるレバーアームの拡大に抗して大きな股関節伸展モーメント発揮したと考えられる.体幹前傾が大きくなるとレバーアームも大きくなるため,股関節伸展モーメントが大きくなる.よって,高齢者の着座において,いすからの鉛直床反力を小さくするためには,体幹前傾が必要とされることが示唆された.

【理学療法学研究としての意義】高齢者に対する股関節伸展筋の強化は,着座動作における体幹前傾を可能にさせ十分な股関節伸展モーメントすることで着臀寺の衝撃の少なくできることがわかった.
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© 2011 日本理学療法士協会
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