理学療法学Supplement
Vol.38 Suppl. No.2 (第46回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: PF2-019
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ポスター発表(特別・フレッシュセッション)
運動ニューロンの軸索側枝から興奮生入力を受ける未知の介在ニューロン
村松 憲丹羽 正利佐々木 誠一
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キーワード: 脊髄, 運動制御, 軸索側枝
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抄録
【目的】
運動ニューロンの軸索側枝は脊髄の運動ニューロンに広く存在するものであり、四肢を支配する運動ニューロンの軸索側枝は主としてレンショウ細胞と呼ばれる抑制性の介在ニューロンに接続することが知られている。レンショウ細胞は自身を興奮させる運動ニューロンプールに抑制性のシナプスを作り、運動ニューロンに対して反回抑制と呼ばれるネガティブフィードバック回路を形成している。
今回、我々が研究対象としたのは骨盤底筋群を支配する陰部神経運動ニューロンで、これらの運動ニューロンは四肢を支配する運動ニューロンと同様に軸索側枝を出す事が知られているが、運動ニューロンから反回抑制が記録できないことから、その軸索側枝は少なくともレンショウ細胞には接続しないと考えられてきた。しかしながら、軸索側枝から興奮性の入力を受ける神経細胞がレンショウ細胞だけであるとは限らないため、軸索側枝から興奮性入力を受けるレンショウ細胞以外の神経細胞の存在についての解析することには意義がある。そこで本研究は電気生理学的手法を用いて陰部神経運動の軸索側枝から興奮性入力を受ける神経細胞細胞が存在するか否か検討する事を目的に行った。
【方法】
[運動ニューロンの軸索側枝から興奮生入力を受ける介在ニューロンの記録]
本実験には成ネコ11頭を使用した。ネンブタール麻酔下、人工呼吸器にて維持した動物の陰部神経を剖出し、刺激用のカフ電極を設置した。次にL2からS2までの椎弓切除を行い、脊髄を露出させ、L6からS3までの両側後根を切断した。続いて陰部神経を電気刺激しながら、FastGreen FCFで飽和させた3MNaCl水溶液を充填したガラス管微小電極を脊髄背側から刺入しオヌフ核周辺で陰部神経運動ニューロンの軸索側枝から興奮性のシナプス入力を受けるニューロンの活動電位を記録した。介在ニューロンの活動電位の記録が終了したら直流電流を記録電極から流して電極内のFastGreen FCFを記録部位に沈着させた。
[運動ニューロンの細胞内記録]
本実験には成ネコ7頭を用いた。前述の細胞外電位の記録と同様の方法で、刺激電極を陰部神経に設置し、脊髄の後根を切断する。次に脊髄背側から2MKCitrateを充填したガラス管微小電極を刺入し、陰部神経の電気刺激によって逆行性に発火する陰部神経運動ニューロンより細胞内記録を行った。細胞内記録に成功したら、記録を行っている細胞の閾値をわずかに下回る電気刺激を陰部神経に与えながら膜電位を200回以上加算平均した。
【説明と同意】
本研究はヘルシンキ宣言に従うもので、茨城県立医療大学動物実験倫理委員会の承認を得ている。
【結果】
陰部神経運動ニューロンの軸索側枝から興奮性入力を受けて連続発火する介在ニューロン14個の記録に成功した。いずれの介在ニューロンも発火の初期には約900Hzの高頻度発火を示し、その後発火頻度は漸減していった。発火の持続時間はニューロン間の差が大きく、短いものでは10ms程度、長いものでは100ms以上持続した。これらの介在ニューロンはオヌフ核周囲、特にオヌフ核の内側の灰白質に存在していたが、オヌフ核の内部に存在するものは無かった。また、14個の陰部神経運動ニューロンから細胞内記録を行ったが、反回抑制による抑制性シナプス後電位は観察されなかった。
【考察】
本研究は現在まで介在ニューロンに接続する事がないと考えられてきた陰部神経運動ニューロンの軸索側枝が介在ニューロンに接続する事を初めて報告するものである。これらの介在ニューロンの高頻度の発火パターンはレンショウ細胞に類似するものであったが、運動ニューロンからは反回抑制が記録されなかったため、この介在ニューロンはレンショウ細胞の最大の特徴である運動ニューロンに対する抑制性のシナプスが認められない。以上の結果は本研究で発見された介在ニューロンはレンショウ細胞以外の未知の介在ニューロンである可能性が高い。
【理学療法学研究としての意義】
理学療法の治療手技の中には脊髄の運動ニューロン周辺の神経回路の特性を利用したものが数多く存在しているが、本研究結果は運動ニューロンの軸索側枝の新たな機能の一端を示唆するものであり、本研究で発見された介在ニューロンの機能の解析が進めば将来、治療手技の改善、改良につながる可能性を含んでいる点に理学療法研究としての意義がある。
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© 2011 日本理学療法士協会
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