理学療法学Supplement
Vol.38 Suppl. No.2 (第46回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: PI1-129
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ポスター発表(一般)
急性期脳梗塞患者における早期予後予測の検討
八木 麻衣子川口 朋子吉岡 了渡邉 陽介遠藤 弘司寺尾 詩子小山 照幸植田 敏浩
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キーワード: 脳梗塞, 早期予後予測, 転帰
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抄録
【目的】脳卒中医療体制の構築に伴い、早期リハを経ても短期間での機能回復が困難と予測される症例では、速やかな回復期病院への移行が望まれる。しかし、自宅退院の可否や、回復期病院への転院の必要性の有無など、脳卒中急性期における転帰についての予後予測は、医師やリハスタッフの経験的な判断に委ねられているのが現状である。
脳卒中において、機能予後に関する検討は多く報告されているが、急性期病院での転帰に関するものは少ない。また、脳卒中発症後早期の評価は、治療上の活動制限、意識障害や高次脳機能障害の影響を考慮し、簡便な評価項目を変数として採用する必要がある。よって本報告は、簡便で客観的な指標を説明変数に採用し、急性期病院における転帰、特に回復期リハ継続の必要性を判別しうる予測因子を明らかにすることを目的とした。
【方法】対象は、平成21年4月1日~平成22年3月31日に当院脳卒中センターに入院し、リハの指示があった脳梗塞230例のうち、取り込み基準を満たした187例とした。研究デザインは後ろ向き観察研究とした。調査項目は、(1)患者背景:年齢、性別、入院前modified Rankin Scale(mRS)、入院時家族背景、世帯構成人数、家屋環境、既往症、(2)疾患に関する項目:病型分類、入院時National Institute of Health Stroke Scale(NIHSS)、外科的手術の有無、(3)入院経過に関する項目:リハ開始までの日数、車椅子乗車獲得までの日数、神経症状増悪の有無、合併症の有無、転帰(自宅、回復期病院、一般・療養型病院、施設)、(4)理学療法初回介入時身体機能:上肢・手指・下肢のBrunnstrom Recovery Stage(Br stage)、感覚障害、運動失調の有無、嚥下障害の有無、高次脳機能障害の有無、Barthel Index(BI)、初回介入時及び初回離床時のActivity for basic movement scale II(ABMSII)、を診療録より後方視的に調査した。これらの項目について、転帰が自宅退院であった群(自宅群)と回復期病院であった群(回復期群)の2群間での比較検討を行った。統計学的手法はχ2検定及びMann-WhitenyのU検定を用いた。差が認められた項目について、転帰を目的変数としたロジスティック回帰分析を行い、転帰についての予測関連因子を検討した。有意水準は5%未満とした。
【説明と同意】本報告は、個人の情報が特定されないよう、倫理的な配慮を行い実施した。尚、本報告は当院倫理審査委員会に研究計画を事前に申請した。
【結果】転帰別の属性は、自宅群84名(男性52名、女性32名、平均年齢70.9±10.3歳)、回復期群50名(男性33名、女性17名、平均年齢74.3±8.6歳)であった。その他は、一般・療養型病院30名(男性17名、女性13名、平均年齢78.3±12.2歳)、施設17名(男性6名、女性11名、平均年齢83.6±12.7歳)、死亡退院6名(男性4名、女性2名、平均年齢77.5±12.2歳)であった。
自宅群と回復期群間において、入院時NIHSS(3.3±3.0vs7.9±6.0点、p<0.01)、車椅子乗車までの日数(1.9±3.9vs3.7±3.2日、p<0.01)、神経症状増悪の割合(4.7vs44.0%、p<0.01)、上肢・手指・下肢Br stage、感覚障害、嚥下障害の割合(10.7vs56.0%、p<0.01)、高次脳機能障害の割合(20.2vs58.0%、p<0.01)、入院時BI(45.2±30.6vs16.5±25.8点、p<0.01)、リハ介入時ABMSII21.6±8.3vs12.8±7.9点、p<0.01)、初回離床時ABMSII(26.0±1.0vs12.8点、p<0.01)において有意な差が認められた。ロジスティック回帰分析においては、神経症状増悪の有無(オッズ比11.64、95%信頼区間:2.74-49.44)、嚥下障害の有無(オッズ比4.26、95%信頼区間:1.23-14.50)が転帰と有意に関連していた。また,初回離床時ABMSIIはロジスティック回帰分析において有意差は認められなかったものの、特典の低い対象者ほど回復期病院転院の確率が高まる傾向にあった(オッズ比0.88、95%信頼区間:0.77‐1.01)。ロジスティック回帰式の寄与率はR2=0.59であった。
【考察】急性期病院における転帰に関して、回復期病院へのリハ継続の必要性を早期に判断するための予測因子を後方視的に検討した。急性期においては、維持期での自宅退院に重要な因子である家族構成人数など、患者背景の要素は帰宅群と回復期群の間で差を認めなかった。一方、神経症状増悪や嚥下障害がある場合、起居動作の評価指標であるABMSIIの初回離床時における得点が低い症例は、回復期病院でのリハ継続が必要な例が多かった。早期のリハ評価により、急性期病院における転帰を予測できる可能性が示唆された。
【理学療法学研究としての意義】急性期脳卒中の転帰予後予測について、一定の知見を得られた研究であった。
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© 2011 日本理学療法士協会
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