理学療法学Supplement
Vol.38 Suppl. No.2 (第46回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: PI1-145
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ポスター発表(一般)
脳卒中片麻痺患者のステップ時間計測値の検査者内および検査者間信頼性の検討
川畑 志乃重島 晃史熊谷 匡紘小松 弘典森国 裕松村 文雄半田 健壽藤原 孝之小駒 喜郎
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抄録

【目的】
脳卒中片麻痺患者の歩行分析の手段として観察や機器を用いた分析がある.歩行観察は比較的容易で場所を選ばず,経済的であるが,主観的要素や経験に依存するため信頼性に乏しい.三次元動作解析装置や床反力計などを用いた歩行分析は多量の客観データを同時に抽出でき,練習次第で経験に左右されない分析が可能である.しかし,機器の操作の煩雑さ,実験環境上の制約,経済性の悪さが,多くの臨床場面に導入することを困難にしている.臨床上身近で簡単に扱えるもので,かつ客観的なデータを採取することができれば,観察以上に信頼性がある分析が可能になると考える.
ビデオブラウザはパソコン上で動画が再生できるアプリケーションソフトである.最近,デジタルカメラでも容易に動画撮影が可能になり,場所を選ばず質の高い映像が撮影できる.デジタルカメラおよびビデオブラウザを用いて客観的データを抽出でき,歩行分析に応用できれば臨床場面で有用である.
そこで本研究では,脳卒中片麻痺患者を対象にビデオブラウザを用い,歩行中のステップ時間測定について検査者内および検査者間信頼性を検討したので報告する.
【方法】
対象者は脳卒中片麻痺患者10名(男性5名,女性5名,年齢74±14歳,身長155±4.6cm,体重55.0±8.2kg,BMI22.8±3.2,Brunnstrom Recovery Stage(下肢)2:1名, 3:1名,4:4名,5:3名,6:1名)であった.各対象者の歩行能力はは監視以上で介助は不要であり,必要に応じて杖や装具を使用した.なお,歩行速度100m/min以上の対象者は除外した.
実験環境はリハビリテーション室内で前後に2mの予備路を設けた10m歩行路を設定した.歩行路中央から側方に約5m離れた位置にデジタルカメラ(CASIO社製EXILIM EX-Z700)を設置し,高さ40cmの台上に固定した.デジタルカメラは動画モードで撮影し,画角内には最低7接地分を含めるようにした.
歩行条件として対象者は歩行路をできる限り速く5回実施し,その中で最も速い歩行速度のデータを採用した.
ステップ時間の測定にはビデオブラウザ(Area61 Video Brower)を用いた.ビデオブラウザは1秒当たり30フレームの画像を取り込むことができる.撮影した動画はブラウザ上で再生し,コマ送りで初期接地(以下,IL)を確認した.一側のILから他側のILまでをステップ時間(単位:フレーム数)とし,これを6歩分測定した.検査者は経験年数3~11年目の5名で,すべての検査者はビデオブラウザでの測定練習は十分行った.また,経験年数3年目の検査者1名は3回別日に測定を行った.
統計学的解析では検査者内信頼性を検討するために級内相関係数(1,1)および(1,3)(以下,ICC(1,1),ICC(1,3))および百分率誤差を算出した.また,検査間信頼性を検討するために級内相関係数(3,1)および(3,5)(以下,ICC(3,1),ICC(3,5))および百分率誤差を算出した.なお,すべての統計学的解析において危険率5%を有意水準とした.
【説明と同意】
本研究は当院倫理委員会の承認を受け,対象者に研究の趣旨を十分説明し,同意を得た上で実施した.
【結果】
検査者内信頼性を検討した結果,ICC(1,1)=0.9911,ICC(1,3)=0.9970を示し(p<0.01),誤差率は2.2%であった.検査者間信頼性を検討した結果,ICC(3,1)=0.9930,ICC(3,5)=0.9986を示し(p<0.01),誤差率は1.47%であった.
【考察】
本研究の結果から,ビデオブラウザを用いたステップ時間の測定は検査者内・検査者間ともに良好な級内相関係数および百分率誤差が得られ,経験年数に関係なく信頼性の高い測定が可能になることが示唆された.特に,経験の浅いPTに対して歩行分析の一手段として有用である.脳卒中片麻痺患者の歩行は歩行速度低下,麻痺側立脚時間の低下,立脚期股関節伸展・足関節底屈可動域低下などによって,左右下肢の円滑な交互運動や歩容の安定性を欠いている.ビデオブラウザを活用した簡易的分析は,片麻痺歩行の左右差や不安定性を客観的に評価することが期待できる.今後は他の歩行パラメータや前額面上からの解析についても検討していきたい.
【理学療法学研究としての意義】
本研究は脳卒中片麻痺患者の歩行におけるビデオブラウザを用いたステップ時間測定の検査者内・検査者間信頼性の検討を目的とし,良好な信頼性を有していた.経験に左右されず,簡易でかつ客観的データを抽出でき,臨床場面で広く応用が期待できるという点で意義のある研究であると考える.

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© 2011 日本理学療法士協会
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