理学療法学Supplement
Vol.38 Suppl. No.2 (第46回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: PI1-149
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ポスター発表(一般)
脳卒中片麻痺患者における手指の運動機能回復に伴う随意運動中の脳血流量の経時的変化
機能的近赤外分光装置(fNIRS)による検討
竹内 奨富永 孝紀市村 幸盛大植 賢治河野 正志谷口 博湯川 喜裕森岡 周
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抄録
【目的】近年,脳損傷後の機能回復に病変半球,非病変半球を含めた運動前野,補足運動野,一次感覚運動野といった運動関連領野が関与することが明らかとなっている(Jaillard 2005).しかし,運動機能回復に伴い,獲得される運動の違いが脳血流量に及ぼす影響については明らかにされていない.本研究では,脳卒中片麻痺症例を対象に運動機能回復に伴う随意的な手指の集団屈伸運動,対立運動中の脳血流量の経時的変化を検討した.
【方法】症例は,左運動野のラクナ梗塞により右片麻痺を呈した右利きの60歳代男性とした.発症後1週目はBRS右上肢VI,手指III,下肢VI, Fugl-Meyer Assessment(FMA)の上肢項目は54/66点で,集団屈伸運動をわずかに認めた.2週目は手指BRSIV, FMA58点で,集団屈伸運動が獲得された.3週目はBRSV, FMA61点で,対立運動が獲得された.11週目はBRSV,FMA65点であった.課題は椅坐位にて実施し,検者の言語教示により,右手指の集団屈伸運動を求める課題Aと,右母指,示指の対立運動を求める課題Bとした.課題中の脳血流量は発症後1週,2週,3週,11週に測定した.脳血流酸素動態の測定には機能的近赤外分光装置(fNIRS:島津製作所FOIRE3000)を用いた.光ファイバフォルダを前頭‐頭頂部を覆うように全49チャンネル(ch)装着し,プローブ位置は国際10-20法に基づき設定した.測定時間は安静10秒-課題10秒-安静10秒とする3連続課題とし,解析には酸素化ヘモグロビン(Oxy-Hb)値を用いた.計測ch毎に課題開始前10秒間の安静時間におけるOxy-Hb変化量のばらつきから標準偏差(SD)を算出した.次に本研究では49ch同時計測を行っているため,Bonferroni法による多重比較補正を考慮した有意水準(3.28×SD,両側確率,p<0.05)を設定し,課題中と安静時のOxy-Hb変化量の平均値の差が有意水準を超えた場合に,課題依存的に有意な活動が見られたchとした.
【説明と同意】本研究の実施に際し,村田病院倫理審査会公認の書面にて被験者に実験の主旨を説明し,参加の同意を得た.
【結果】課題Aでは,発症後1週目は左右前頭前野背外側部(DLPFC),補足運動野(SMA),左運動前野(PMA)に,2週目は左DLPFC,左右PMA, SMA,一次感覚運動野(SMC),右頭頂連合野(PC)に,3週目は左右DLPFC, PMA, SMA,SMC,右PCに相当する領域でOxy-Hbの有意な増加を認め(p<0.05),11週目は全ての領域でOxy-Hbの有意な増加を認めなかった.課題Bでは,発症後1週目は左右DLPFC,SMA,SMC,左PMA,PCに,2週目は右DLPFC,左右PMA, SMA,SMCに,3週目は左右DLPFC,SMA,右PMA,SMCに,11週目は右DLPFC,PMA,SMCに相当する領域でOxy-Hbの有意な増加を認めた(p<0.05).
【考察】課題Aにおいて,集団屈伸運動をわずかに認めた発症後1週目の左PMAを中心とした活動から,集団屈伸運動が獲得された2週目に両側の運動関連領野の活動を認めた.これは両側の運動関連領野の一時的な動員により,運動機能回復を補完したことが推察され,先行研究(Jaillard 2005)と類似した脳活動により,運動機能回復が行われたことが示唆された.11週目に有意な脳活動を認めなかったことは, 本症例にとって,手指の巧緻性の獲得に伴い,集団屈伸運動における脳活動に多くの動員を必要としなくなったことが推察された.課題Bにおいて,対立運動が困難な1~2週目に両側の運動関連領野の活動を認めた.FMAで1週目54点,2週目58点と手指の拙劣さを認め,本症例にとって,集団屈伸運動と比較して運動が複雑であることが考えられた.運動の複雑さに依存して運動肢と同側の運動関連領野の活動を認めることから (Rao 1993),同側を含めた両側の運動関連領野が活動したことが推察された.また3週目以降,対立運動の獲得に伴い,脳活動が同側へと移行を認めた.こうした脳活動の変化は,長期に及ぶ同側性の機能代償のパターンと類似(加藤2009)しており,本症例における対立運動の回復過程に応じた脳活動であることが推察された.
【理学療法学研究としての意義】脳損傷後の運動機能回復に伴う単一の随意運動中の脳活動の変化が,対象によって異なることが明らかにされている(加藤2009).本研究の意義は,同一症例においても,獲得される運動の時期や複雑さに応じて,運動機能回復に伴う脳活動の変化が異なることを示唆したことである.
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© 2011 日本理学療法士協会
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