抄録
【目的】
近年、急性期脳血管障害(以下CVA)患者において早期から積極的に立位・歩行練習を実施することが推奨されている。当院においても安静度の解除とともに、十分なリスク管理の下で、各症例のコンディションに合わせ積極的に立位での姿勢コントロールを中心にリハビリテーションを展開している。また諸家により急性期CVA患者の様々な評価は目にするが、立位バランスとADL能力、その経過の関連性についての報告は少ない。今回、当院における急性期CVA患者に対して立位バランスの評価スケールとしてshort form of the Berg Balance Scale(以下SFBBS)を用いてBarthel Index(以下BI)との関連性と経過を調査した。関連性を検討することで、今後の急性期CVA患者のリハビリテーションにおける評価と治療の一助となることを提案することを目的とした。
【方法】
対象は、2010年5月から2010年10月の6ヶ月間において当院における急性期CVA患者54名(男性43名、女性11名、年齢67.7±14.4歳)である。疾患名は脳出血13名、脳梗塞41名、麻痺側は右片麻痺21名、左片麻痺26名、両側片麻痺3名、失調症4名であった。またリハビリテーション実施期間は25.2±15.4日であった。
測定はSFBBSとBIを、安静度が立位可能になった時点とリハビリテーション終了時の2回計測した。発症から初回評価時までの期間は7.9±6.3日であった。
本研究では急性期の患者が対象であり、患者の負担を考慮することとより簡便な方法が望まれ、Chia-Yeh Chouらが提唱しているSFBBSを用いた。SFBBSは「椅子からの立ち上がり」、「閉眼立位保持」、「左右の肩越しに後ろを振り向く」、「継ぎ足位での立位保持」、「床から物を拾う」、「立位で前方リーチ」、「片足立位保持」の7項目で、各項目とも0~2点で判定し14点を満点としている。
BIは、より立位・歩行機能との関連を評価するため、移乗、トイレ動作、入浴、歩行・車椅子、階段昇降、着替えの項目を選定し、計65点を満点とする評価を用いた。
統計学的解析は、t検定を用い有意水準は危険率1%未満とした。またSFBBSとBIの関係性を相関係数を用いて検討した。
【説明と同意】
全ての症例や家族に対してヘルシンキ宣言に基づき、研究内容を口頭で説明し同意が得られたのち実施した。
【結果】
BIは初回時19.4±17.3、終了時40.8±22.3、SFBBSは初回時3.3±3.9、終了時7.4±4.9となりいずれも有意差を認めた(p<0.01)。初回時のBIとBBSの関連性は、相関係数(以下R)=0.89、終了時はR=0.94となりいずれも有意な強い正相関が認められた。
【考察】
当院急性期CVA患者のリハビリテーションにおいて開始時、終了時ともにBIとSFBBSの間には強い関連があることが確認された。急性期CVA患者において、早期から立位など抗重力位姿勢でのリハビリテーションを行うことは、症例の機能改善に有効な結果が得られたものと思われる。また、この結果を評価することにSFBBSを用いることはBIとの関係を比較する上でも有効であると思われ、ADLの改善につながるのではないかと考える。
【理学療法学研究としての意義】
急性期CVA患者での日常生活動作の評価と立位バランス機能における比較と早期リハビリテーション介入との関連性を見出せる一つの要点と思われる。