理学療法学Supplement
Vol.38 Suppl. No.2 (第46回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: PI1-154
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ポスター発表(一般)
維持期片麻痺患者の立ち上がりおよび立位重心に不安定足底板介入が及ぼす影響
梅木 千鶴子網本 和横山 久美子中里 和也米元 絵里山口 沙織藤井 ゆう子
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抄録
【目的】
脳卒中患者に対する理学療法の目的は、患者の残存機能を有効に利用し、実生活における諸活動に最適化することである。非麻痺側優位の動作となっている維持期の比較的活動度の低い片麻痺患者を対象に短い治療時間内で、麻痺側下肢の使用を増大させる治療が必要だと考えられる。容易に導入が可能な介入として、一側下肢が不安定となる状態を作り出すために半球状の足底板を装着する方法を考案した。導入にあたり動作を抑制する方向に作用するのかあるいはバランスを保とうとする促通に働くのか、影響は十分明らかではない。そこで、維持期片麻痺患者に対し、不安定足底板が立ち上がり動作および立位重心動揺にどのような影響を及ぼし、治療介入として役立つ可能性があるのかを検討した。

【方法】
対象は老人保健施設に入所および通所中の維持期片麻痺患者10名(平均年齢70.8±9.9歳)および健常者4名(69.5±4.7歳)とした。内訳は右麻痺4例、左麻痺6例、脳出血6例、脳梗塞4例で、発症からの経過年数は4.4年であった。研究デザインは、不安定足底板を非麻痺側と麻痺側に装着した介入を条件とし、2条件の立位バランスおよび立ち上がり比較研究とした。測定は圧分布計測システムZebris-PDMを使用した。方法は端座位からの立ち上がり動作を5回試行し、試行ごとに最長20秒間の圧中心分布を計測した。立位では、開閉眼の静止立位計測後に左右へ最大重心移動後の静止姿勢保持した状態を順不同で2回ずつ実施し、それぞれ30秒間を計測した。介入の前後に測定を実施した。介入側に関しては、健常者はランダムに、片麻痺患者では非麻痺側からと設定し1週間以上の間隔をあけて反対側の実験を実施した。介入方法は、半球状の足底板を装着し、立ち上がり20回、平行棒内歩行3往復、横歩きや後ろ歩き、杖歩行など適時休憩をいれながら被検者の可能な内容で15分間の訓練を実施した。解析方法は、介入前後において圧分布および重心動揺パラメータについて対応のあるt検定を使用した。有意水準は5%未満とした。

【説明と同意】
本研究は著者の所属する医療法人および大学院の倫理審査委員会の承認を得て実施した。全対象者には書面を用いて十分に研究内容を説明し、同意を得た。

【結果】
立ち上がり時の左右の荷重分布は、左右差および麻痺側介入と非麻痺側介入、介入の前後を比較したところ有意差を認めなかった。静止立位は、健常者および片麻痺患者とも介入前後でロンベルグ率に有意差を認めなかった。立位最大重心移動は、片麻痺患者において麻痺側介入後の非麻痺側下肢へ重心移動を行った時に総軌跡長が1742.35mmから1530.49mmへ有意に低下した(p=0.01)。非麻痺側介入後の非麻痺側下肢へ重心移動を行った時に矩形面積は840.26mm2から1193.38 mm2(p=0.04)、外周面積は357.54 mm2から499.08 mm2(p=0.01)および実効値が7.49から9.01(p=0.02)有意に増加した。健常者では、左右介入とも、介入前後に有意差は認めなかった。

【考察】
不安定足底板における影響は、立ち上がり動作にはみられなかった。しかし、片麻痺患者の立位最大重心移動では、麻痺側介入後の麻痺側の重心移動に総軌跡長の有意な低下を認め、非麻痺側への重心移動では総軌跡長、矩形面積において低下傾向をみとめた。一方、非麻痺側介入後の非麻痺側の重心移動では矩形面積、実効値において数値は有意に増加していた。面積の低下は、重心が安定した事をしめしている。今回の介入により、非麻痺側下肢優位の動作を行っている片麻痺患者にとって、非麻痺側介入により疲労につながったと考えられ、麻痺側介入では、不安定足底板は下肢に対する制限を与えるのではなく、刺激となったと考えられた。立ち上がりの課題では上肢の支持を必要とする症例も含まれ能力に差が見られた。各症例においても各施行にばらつきがみられたため立位課題に比べ、立ち上がり課題は難易度が高く、今回の介入の影響は見られなかったと考えられた。

【理学療法学研究としての意義】
不安定足底板による介入はバランス能力の活性化につながる可能性があり、麻痺側に装着する方が有効と考えられた。
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© 2011 日本理学療法士協会
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