理学療法学Supplement
Vol.38 Suppl. No.2 (第46回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: PI1-195
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ポスター発表(一般)
片側に軸索型末梢神経障害を呈したChurg-Strauss Syndrome(CSS)の一症例を経験して
根気強いリハビリにより短期で屋内独歩自立となった症例の回復過程
川口 進堀田 晶子山田 綾子西川 順治高橋 秀寿
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抄録
【目的】CSSは気管支喘息などの前駆症状後、末梢血液の異常な好酸球増多が起こり、全身の小~中動静脈や多臓器の血管炎症状が出現する。多発性単神経炎を呈する症例が多く,末梢神経障害(筋力低下,感覚低下)や内臓障害などの全身症状を伴い、回復は緩徐で長期に渡る。運動障害、知覚障害が残存することが多いと報告され、リハビリが必要とされるが、理学療法の報告は少なく、予後予測や治療法の選択も確立されていない。今回左側に重度の末梢神経障害を呈したCSS患者の理学療法を経験したのでここに報告する。
【方法】対象は、70代前半の女性、2008年1月 気管支喘息と診断、2009年11月下痢症状より徐々に筋力、感覚共に低下しCSSと診断され、2010年2月 当院入院となった。神経伝導速度検査では、四肢に軸索障害を認めた。入院初期には、四肢近位より末梢、右より左に重い筋力低下・感覚障害・しびれ感を認めた。歩行は杖及び短下肢装具装着にて中等度介助レベルでした。運動療法の実施頻度は、平均6回/週、内容は、ストレッチ、感覚訓練、筋力トレーニング、歩行練習、自転車エルゴメーターを実施した。対象の筋力(MMT)、触覚、10m歩行速度、日常生活動作(以下ADL)の経過を検討した。
【説明と同意】対象者に対しては、ヘルシンキ宣言に基づき、研究の趣旨を十分に説明し、同意を得た。
【結果】筋力は、左右共に股・膝関節周囲筋は、MMT3、4レベルから発症5ヶ月後には、ほぼ5レベルに増強した。左前脛骨筋は、発症より0(2ヶ月)→1(6ヶ月)→2(8ヶ月)に増強した。左下腿三頭筋は、発症より1→2(2ヶ月)→3(8ヶ月)→4(10ヶ月)となった。左母趾伸筋は、発症より0→1(7ヶ月)→2(10ヶ月)となった。左趾伸筋は、発症より0→1(5ヶ月)→2(7ヶ月)→2(10ヶ月)となった。
触覚では、内側足底神経領域(母趾腹側)は、発症2ヶ月後(右/左)重度鈍麻/脱失、9ヵ月後に左右共に重度鈍麻となった。外側足底神経領域(小趾腹側)、深腓骨神経領域(母趾背側)、浅腓骨神経領域(足背)では、左右共に発症2ヶ月後は重度鈍麻、9ヵ月後に中等度鈍麻となった。
杖・短下肢装具使用での10m歩行時間(秒)は、発症より16.48(2ヶ月)→9.54(5ヶ月)→9.18(9ヶ月)となった。
ADLでは、入院当初のFIMは103/126点、歩行は杖と装具使用し軽介助レベル、ADLは右上肢のみの使用で軽介助レベルであった。発症3ヶ月後より屋内杖歩行の装具使用にて自立し、環境を整えれば、FIM123/126点となった。4ヶ月後より杖なしでの歩行自立となった。10ヶ月後より屋内歩行装具なしで自立となった。
【考察】軸索型の末梢神経障害の機能回復は緩徐で長期にわたる。しかし、本症例は、末梢神経障害が左側に重度なため、装具や環境調整によりADLを早期に向上させ、回復期にて集中的なリハビリを行なったことで短期で在宅に帰ることができた。機能回復には継続的な拘縮・筋萎縮予防、機能回復に合わせた代償動作の修正をしていく必要があった。それには、装具や足底板の形状をこまめに変更する必要があった。また、神経伝導速度検査所見を参考に、現在の神経再支配の状態を把握し、理学療法評価と照らし合わせ訓練の変更や負荷の調整を行った。本症例では、運動障害より感覚障害の回復がより遅延し、動作感覚がわからないことが多かった。そのため、左右同時での運動や交互運動を行い右側の動作を左側に転移させることで動作の再学習を促した。本症例は初期の急激なADL向上に対し、中期に変化が見られず、精神的な負担を強いられた。しかし、歩行速度など客観的な数値や視覚的な身体状態は変化しており、提示することでモチベーションを維持することができた。それに加え、痛みや筋萎縮を予防し、生活環境を維持することで二次的な障害を予防することができた。CSSは、長期の治療が必要なため、身体・精神的フォローには、予後予測が重要な疾患と考えられた。
【理学療法学研究としての意義】CSSは、末梢神経障害の分布により、様々な症状を呈し治療法も変わってくる。今回、長期の治療が必要であると思われたが、障害が片側に強かったこと、リハビリを集中的に行なったため、短期で自宅退院することができた。希少な症例のため、症候や治療内容を提示することで、疾患に対する理解やよりよい治療方法を確立することに意義があると思われた。
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© 2011 日本理学療法士協会
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