理学療法学Supplement
Vol.38 Suppl. No.2 (第46回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: PI2-128
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ポスター発表(一般)
健常者における片側下肢への錘負荷が歩行へ与える影響
大野 洋一神戸 晃男三秋 泰一影近 謙治
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キーワード: 歩行練習, 脳卒中, 動作分析
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抄録
【目的】
脳卒中患者の歩行練習としては様々なものがあるが高価な機器を使用せずに誰もが画一的にかつ簡素に行えるものとして錘を用いた健側下肢への錘負荷による歩行練習の報告がある.歩行練習の方法としては一定時間,健側足関節に錘をつけ歩行するという簡素なものである.錘負荷による効果としては中枢神経系が質量の変化へ対応し,無意識下での運動機能の再調整が起こるとされている.歩行への効果としては歩幅の増加や下肢振り出し時の関節角度の変化,歩行速度の向上などが報告されている.しかし,この錘負荷による歩行への効果に関する報告は少なく,また,錘負荷量を被験者個々の体重で設定している報告は我々の調べた範囲では見当たらなかった.この研究では今後の脳卒中患者における錘負荷での練習効果を考察する基礎研究として健常者対象に行い,歩幅,歩行速度,遊脚期における下肢関節角度変化についての影響を検証することを目的とした.
【方法】
対象は健常男性10名で年齢は26.1±1.4歳,体重は65.2±6.1kgであった.錘負荷歩行の影響を検討するために,錘負荷歩行前(PRE),錘負荷歩行終了後(POST)および錘負荷終了後10分後(AFTER)の歩行分析を行った.錘負荷歩行は被験者の体重の1/30の錘を左足関節部に負荷し5分間の歩行を行わせた.歩行分析は3次元動作解析システム(VICON社製VICON MX)にて,DIFF15マーカーセットに従って被験者に反射マーカーを装着し行われた.カメラは6台とし,AMTI社製床反力装置とKistler社製床反力装置の計2枚が埋め込まれた床反力計を含む幅1.0m長さ8.0mの歩行路にて行われた.動作解析システム,床反力計ともにサンプリング周波数は100Hzであった.歩行は裸足で自由歩行とした.床反力計の上を違和感なく歩行できるように各歩行で歩行開始位置を指定し床反力計位置と歩行周期の調整を行った.原則として各歩行を6回施行し,2枚の床反力計を踏み分けることのできた3施行を分析データとして採用した.採用データは臨床歩行分析研究会が推奨するDIFF形式の計算プログラムを用いて算出し3種類の歩行を比較検討した.検討項目としては遊脚期における両股関節・膝関節・足関節の最大屈曲角度,左右歩幅,重複歩距離,自由歩行速度とした.統計処理としては各項目を一元配置分散分析にて統計処理を行った.0.05未満を統計学的に有意とみなした.
【説明と同意】
本研究は金沢大学倫理審査委員会の承認と被験者による同意を得て行われた.
【結果】
一元配置分散分析の結果,PRE・POST・AFTERでの両下肢関節角度変化,歩幅,歩行速度すべてで有意差を認めなかった.
【考察】
Regnauxらは軽度麻痺を生じている脳卒中患者に対して健側の足関節へ4kgの錘付加した状態での20分間(7分と14分に1~3分の休憩を含む)のトレッドミル歩行練習を実施し,練習後,歩行速度,歩幅,ケイデンスの改善と歩行時の麻痺側股関節角度,健側股関節・膝関節・足関節の角度の増加を報告している.また,同研究において錘を取り除いた20分後も効果の持続を認めたことから,学習効果が起こっていることが示唆された.今回の研究で有意差を認めなかった原因として,先行研究との比較より,本研究は平地での歩行練習であり,先行研究がトレッドミルでの歩行練習であったことがあげられる.しかし,大塚らはトレッドミル歩行の平地歩行への高い転移性を報告していることからこの影響は少ないと思われる.最も考えられる要因としては練習時間と錘負荷量であるが,今回の研究の予備実験として被験者に4kgの錘負荷にて歩行を行ったが,歩行が困難であるとの訴えが聞かれたため快適に歩けた体重の1/30と設定した.また,練習時間としても脳卒中患者での練習を考慮すると20分の練習時間は長いと考え5分間と設定した.これらにより下肢に対しての運動変化を引き起こすまでに到らなかったことが考えられる.Nobleらは健常者に対して足関節へ2kgの錘負荷をした状態で5分間トレッドミル歩行練習を実施し,練習直後には錘負荷前に比べ歩幅や関節角度の増加を認めるが,20周期の重複歩のうちに練習前の状態に戻ったと報告している.このことからも練習時間と錘負荷量の影響と考えられる.今回の結果より,今後,練習時間と錘負荷量のさらなる検討の必要性が示唆された.
【理学療法学研究としての意義】
錘負荷による歩行練習はセラピスト間の技術の影響がなく,どの施設でも比較的簡単に行える練習方法である.この方法の効果を検証することにより画一的な治療手技の確立に貢献できると考えられる.
著者関連情報
© 2011 日本理学療法士協会
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