理学療法学Supplement
Vol.38 Suppl. No.2 (第46回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: PI2-127
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ポスター発表(一般)
意識障害を伴う脳血管障害患者の初回起立時における循環・内分泌応答
田中 錦三上西 啓裕三宅 隆広幸田 剣梅本 安則坂野 元彦田島 文博
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抄録
【目的】
脳血管障害患者(CVA)における早期理学療法は坐位・立位などの姿勢変換が推奨されている。しかし、その際の開始条件として意識障害の程度が、ごく軽度(Japan coma scale 1桁)であることと言われている。ところが、意識障害を伴う急性期CVAに対する起立時の循環・内分泌応答は不明であり、その根拠となる研究はほとんどない。本研究では、意識障害を伴った急性期CVAと健常高齢者(Elderly)の安静臥位から起立位への姿勢変換時の心拍数(HR)、1回心拍出量(SV),心拍出量(CO)、血圧(BP)、および抗利尿ホルモン(ADH)、アドレナリン、ノルアドレナリン、アルドステロン、血漿レニン活性(PRA)などの内分泌応答を調べた。
【方法】
意識障害を伴うCVA5名とElderly6名に起立負荷を行った。CVAはすべて初回起立負荷である。CVAはすべて男性で、年齢 70.8±4.5歳、身長 163.8±2.8cm、体重 53.3±4.6kg、BMI(body mass index)19.8±1.2kg/m2、発症後平均 22.2±2.6日であり、意識障害の程度はGlasgow Coma Scale(GCS)でeye opening(E)とbest motor response(M)の項目が2点以上で、総計(total score:T)15点未満のものとした。現疾患は、くも膜下出血(左前頭葉皮質下) 1名、左被殻出血 1名、脳梗塞(左内頸動脈領域、左中大脳動脈領域、右中大脳動脈領域) 3名であった。対照群としてElderlyの男性で、年齢 68.5±3.6歳、身長 165.5±3.0cm、体重 59.2±2.5kg、BMI 21.6±0.9 kg/m2とした。Elderlyはすべて、心臓血管系に作用する薬剤は使用されていない。被験者は室温26±0.5°Cに設定した実験室に到着後、Tilt tableに臥床させた。被験者に対して、意識状態をGCSで安静臥床時と起立後3分で評価した。CVA、Elderlyともに右上腕にBP測定用のカフを巻き、すべての姿勢で心臓の高さになるように右肩関節外転90°位でアームレストに固定し、採血のため左肘正中皮静脈を確保した。そして姿勢変換中、体を安定させるために腹部・大腿・下腿に循環を阻害しないように配慮してストラップで固定した。HRとCO、SVの測定はメディセンス社製MCO-101のインピーダンスCO計を使用し連続測定した。平均血圧(mean blood pressure:MBP)は、MBP=(収縮期血圧-拡張期血圧)/3+拡張期血圧で算出した。まず安静臥床3分間の測定を行った。その後、Tilt tableを60度まで傾け、5分間起立姿勢を維持した。そして水平に戻し、3分間回復期の測定を行った。HR、CO、SVは1分毎にデータを提示し、BPは1分毎に測定した。ADH、アドレナリン、ノルアドレナリン、アルドステロン、PRAは安静臥床3分、起立5分、回復3分の各時点を測定した。
【説明と同意】
本研究は、和歌山県立医科大学倫理審査委員会の承諾を得た上で実施した。すべてのCVAは意識障害を有し研究の理解が得られないため、ご家族に対して十分なインフォームド・コンセントを行い、署名を得た。Elderlyからは本人より同意の署名を得た。
【結果】
1)MBPはElderlyでは起立時も一定であったが、CVAでは有意に低下した。2)SVとCOは、Elderlyでは起立時に有意に低下したが、CVAでは変化しなかった。3)HRはElderly、CVAともに起立時に有意に上昇した。4)ノルアドレナリンはElderly、CVAともに起立時に有意に上昇した。5)ADHおよびアドレナリンは起立時にElderlyのみ有意な上昇を認めた。6)アルドステロンおよびPRAはElderly、CVAともに起立時に有意な上昇を認めなかった。7)CVAのGCS(E)のスコアが起立により有意に改善した。
【考察】
意識障害を伴うCVAでは起立負荷が意識改善をもたらすことが示された。また、起立時にSVとCOの低下は認めないにも関わらずMBPの低下を認めたことと、HRとノルアドレナリンの上昇を認めたことは、末梢血管支配の交感神経活動は上昇しているものの、総末梢血管抵抗の維持は十分でなかったことが示唆される。
【理学療法学研究としての意義】
意識障害を伴うCVAの起立負荷では、注意深く血圧の監視を行えばTilt tableによる起立訓練は可能であり、意識状態の改善にも繋がることが示唆された。
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© 2011 日本理学療法士協会
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