理学療法学Supplement
Vol.38 Suppl. No.2 (第46回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: OF1-036
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口述発表(特別・フリーセッション)
脳血管障害患者における歩行獲得に影響を及ぼす因子
比例ハザード分析による検討およびモデルの妥当性について
齊藤 豊成
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抄録

【目的】
脳血管障害患者の効果的なリハビリテーション(リハ)の提供において適切な予後予測が必要である。歩行獲得はリハの中心的な目標であり、獲得に要する期間は入院期間に影響を与えるため、歩行獲得に要する期間に影響を及ぼす要因を検討することは、近年の在院日数短縮化の中、効率的な医療提供に寄与すると考えられる。
本研究の目的は、脳血管障害患者の歩行獲得期間に影響を及ぼす因子を明らかにすることである。
【方法】
1.因子抽出
対象は、2007年1月~2008年8月の期間に当院回復期リハビリテーション病棟(回復期リハ病棟)に入棟したクモ膜下出血を除く初発脳血管障害患者266名(男性160名、女性106名、年齢67.1±11.6歳、入院期間48.5±39.1日、1日平均リハ実施単位数5.5±1.3単位、自宅復帰率82.4%)とした。
調査項目は対象者の年齢、Stroke Impairment Assessment Set(SIAS)、Trunk Impairment Scale(TIS)、Functional Balance Scale(FBS)の下位項目、認知症、注意障害、半側空間無視、失行の有無、装具処方、歩行補助具処方の有無、リハ介入量である。
歩行獲得期間は、回復期リハ病棟入棟から病院内単独歩行許可日までとし、担当理学療法士により病院内において安全に単独歩行が可能であると判断された時とした。退院まで歩行獲得に至らなかった対象者は歩行未獲得とし、退院日を観察打ち切りとした。歩行獲得期間を生存変数、歩行獲得の有無を従属変数とし、上述の調査項目を独立変数としたCox比例ハザード分析(変数増加法による尤度比検定)を行った。
2.妥当性の検討
方法1で検出された因子の交差妥当性の検証を目的に2008年9月~2010年3月の期間に入院した対象者177名(男性111名、女性66名、年齢67.2±13.3歳、入院期間60.6±28.0日、1日リハ実施単位数6.0±0.8単位、自宅復帰率89.3%)において、ハザード式よりリスクスコアを算出し、C indexを求めた。
【説明と同意】
この研究はヘルシンキ宣言に沿って行った。データの基となった評価項目は日常診療で使用しているものであり、担当リハビリテーションスタッフから対象者または家族に対し、同意を得た。データの利用においては、脳血管研究所個人情報保護規定を遵守した。
【結果】
1.予測式抽出
歩行獲得に影響を与える因子は、FBS立ち上がり(ハザード比(HR):1.426、95%信頼区間(95%CI)1.007-2.018)、FBSタンデム立位(HR:1.543、95%C1.180-2.017)、FES踏み台への足乗せ(HR:1.608、95%CI:1.344-1.923)、認知症の有無(HR:0.168、95%CI:0.980-0.289)、注意障害の有無(HR:0.607、95%CI:0.392-0.939)、装具処方の有無(HR:2.427、95%CI:1.422-4.143)であった。
2.妥当性の検討
C-indexは0.19であった。
【考察】
機能障害レベルの指標であるSIASの下位項目は抽出されず、機能的制限レベルのFBSの立ち上がり能力、立位バランス能力、踏み台への足乗せが脳血管障害患者の歩行獲得期間に正の影響を与える因子として抽出された。このことから、歩行獲得を予測する上では機能障害レベルよりも機能的制限レベルの評価が重要と考えられた。また、臨床的には得られた予測式よりリスクスコアを算出することで、歩行の早期獲得が予測される症例と獲得に期間を要する症例を事前に予測した介入が可能になると思われる。
また、C-indexによる交差妥当性では81%の予測が可能であったことから、高い妥当性を有したモデルと考えられた。
【理学療法学研究としての意義】
歩行獲得期間を考慮した妥当性の高い予後予測モデルの構築行った点が意義深いと考えられる。

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© 2011 日本理学療法士協会
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