理学療法学Supplement
Vol.38 Suppl. No.2 (第46回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: OF1-037
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口述発表(特別・フリーセッション)
三次元動作解析装置を用いた定量的片麻痺足関節評価
石尾 晶代大橋 綾乃和田 陽介大前 仁志宮坂 裕之尾崎 幸恵尾崎 健一才藤 栄一近藤 和泉園田 茂
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抄録

【目的】
足関節は3軸方向の運動が可能であり, その機能は歩行時の荷重応答やトゥクリアランスにおいて重要な役割を担っている. 片麻痺患者では足関節機能の改善が他の下肢関節と比して不十分となりやすく, 歩行能力向上の妨げとなる. 片麻痺の足関節機能評価には, Brunnstrom StageやStroke Impairment Assessment Set(以下SIAS)が広く用いられているが, それらは視診による主観的な順序尺度であり評価者間で相違が生じやすい. そこで才藤らは, 第5中足骨頭にマーカを置いた三次元動作解析による定量的評価法を開発した. しかし, 第5中足骨頭の動きのみからでは分離運動に乏しい患者の麻痺程度の判別が容易ではなかった. この点を改善するため, 本研究では新たに第1中足骨頭マーカを加え, SIAS Foot pat test(以下SIAS-F)との関連を検討したので報告する.
【方法】
対象は指示理解良好な脳卒中片麻痺患者20名である. 平均年齢64.0±14.0歳, 男性12名, 女性8名, 脳出血10名, 脳梗塞10名, 右片麻痺15名, 左片麻痺5名, 発症から計測までの平均期間75.1±26.0日であった. SIAS-Fの得点は, 4点が4名, 3点が4名, 2点が3名, 1点が6名, 0点が3名であった.
評価は6名の検者から無作為に2名を選出し, 2日に分けて3日以内に行った. 第1中足骨頭と第5中足骨頭に直径3cmのマーカを取り付け, 5回連続してSIAS-Fを行い, 5回施行のうち最大値と最小値を除いた3施行の各マーカの平均移動距離(cm)を三次元動作解析装置KinemaTracer(株式会社キッセイコムテック社製)で計測した. 第1中足骨頭マーカの移動距離の検者間信頼性の統計には級内相関係数(Intraclass correlation coefficient, 以下ICC)を用いた. 妥当性の検討には, 1日目の第1中足骨頭マーカ, 第5中足骨頭マーカの平均移動距離とSIAS-Fとの相関を用いた. さらに移動距離が1cm以上となった患者を抽出し, SIAS-Fの得点を比較した.
【説明と同意】
全対象者に本研究の目的と方法を説明し協力の同意を得た. なお, 本研究は当院の倫理委員会の承認を得た(第71号).
【結果】
第1中足骨頭マーカの移動距離の検者間信頼性はICC=0.95と高かった. 1日目のSIAS-F得点別の平均移動距離は, 第1中足骨頭, 第5中足骨頭の順に, 0点が0.2±0.1cm, 0.2±0.1cm, 1点が1.1±1.6cm, 0.3±0.2cm, 2点が2.8±1.8cm, 0.8±0.9cm, 3点が2.2±1.2cm, 1.0±0.5cm, 4点が5.1±2.1cm, 3.4cm±1.9cmであり, いずれもSIAS-Fと正の相関関係(第1中足骨r=0.76,第5中足骨r=0.76)を認めた.
両マーカで1cm以上の計測値が得られたのは7名で, SIAS-Fの得点は2点が1名, 3点が2名, 4点が4名であり, 分離運動が進むに従い人数が増加した. 第1中足骨頭マーカのみで1cm以上の計測値が得られたのは5名で, SIAS-Fの得点は1点から3点に分布し, 1名を除き移動距離が大きくなるほどSIAS-Fの得点が高くなった. 第5中足骨頭マーカのみで1cm以上の計測値が得られた患者はいなかった.
【考察】
本研究では, 第1中足骨頭マーカと第5中足骨頭マーカを指標とした三次元動作解析による片麻痺足関節背屈評価の妥当性・信頼性を検討した. 両指標ともにSIAS-Fの得点と正の相関があり, 足関節の麻痺機能評価として妥当であると考えられた. また検者間信頼性も高く, 本法が臨床評価として有用であることが明らかになった.
今回移動距離1cmを境に区分したのは, KinemaTracerを用いた場合の測定誤差が1cmとの報告があり, それ以下の測定値の大小に拘泥すべきではないためである.
第5中足骨頭マーカに較べ, 第1中足骨頭マーカのほうが移動距離1cmとなる患者が増し, 第1中足骨頭移動距離を用いることによりSIAS-F 1~3点レベルの患者を弁別しやすくなると考えられた. しかし, 過剰な内反動作によっても第1中足骨頭移動距離は大きくなってしまうため, 分離運動が進んで外反の動きが加わる点を評価できる第5中足骨頭移動距離を併用して総合判断することが有用であろう. この使い分けは麻痺側足関節の背屈「量」と分離運動の「質」の変化を捉えているとも考えられる. 両移動距離をどのように組合せると麻痺改善程度をわかりやすく表示できるか, さらに検討していきたい.
今後は, 症例数を増やし経時的な検討を行い麻痺回復過程の定量的機能評価の開発を進める予定である.
【理学療法学研究としての意義】
本研究の三次元動作解析装置を用いた片麻痺足関節評価は妥当性・信頼性を有し, 臨床応用が可能と思われる. 近年リハビリテーション分野においてもEvidence-based medicineの思想が広がりつつあり, 客観的かつ定量的な治療効果判定が求められている. このような背景において, 主観的な順序尺度による従来法に変わる新たな客観的かつ定量的な評価方法を提示したという点で, 本研究は理学療法学研究としての意義があると考えられた.

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© 2011 日本理学療法士協会
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