理学療法学Supplement
Vol.38 Suppl. No.2 (第46回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: PF2-025
会議情報

ポスター発表(特別・フレッシュセッション)
重度脳性麻痺者(児)の拘縮と側彎との関係について
過去の運動機能に着目して
古谷 育子寺尾 貴史大畑 光司
著者情報
会議録・要旨集 フリー

詳細
抄録
【目的】
重度脳性麻痺児(者)(以下:CP)における側彎変形や拘縮の進行は,運動機能の影響を強く受け,年齢とともに著明な進行がみられることが知られている.しかし,この側彎変形と拘縮が,過去に座位や移乗,移動能力などの運動機能を獲得している者と,現在に至るまで寝たきりであった者と差があるかどうかは明確ではなく,このような過去の運動機能による側彎変形と拘縮との関係性について検討された報告はない.そこで今回,体幹側彎変形,拘縮と運動機能の関係性についての検証を試みた.
【方法】
対象は当院に入院する粗大運動能力分類システム(以下:GMFCS)レベル5レベルの脳性麻痺者73名(男性38名,女性35名)とした.年齢は6から65歳(平均年齢39±12.7).運動機能としてGMFCSレベルによって,過去GMFCSレベル4以上であったが現在はGMFCSレベル5に低下した群(以下:AC群)と,現在に至るまでGMFCSレベル5の群(以下:NC群)に分けた.脊椎側彎変形は,通常の定期診察時に撮影したレントゲン画像を用い,臥位での全脊椎正面像から,Cobb法によりCobb角を算出した.拘縮はJapanese Assessment Set of Raediatric Extensive Rehabilitation(以下:JASPER)の変形・拘縮評価を用いて,マニュアルに基づき減点方式で行い,最低点を25点,頸部‐体幹の変形・拘縮スコアを抜いた80点を総合得点として評価を行った.そしてこれらの関係についてAC群と,NC群のJASPER,AC群とNC群のCobb角の比較をMann‐WhitneyのU検定を用い優位水準は5%未満とした.また,AC群のJASPERとCobb角の関係と,NC群のJASPERとCobb角の関係をPearsonの相関係数で検討した.
【説明と同意】
今回の研究は,後方視的に解析したものであり,通常の医療で行われたレントゲン画像とJASPER評価を用いている.データの使用に関しては院内での許可を得て,所定の規定に基づき,定期的な評価のデータを基に測定した結果を用いている.
【結果】
AC群とNC群のJASPERに有意差は認められなかったが,Cobb角は有意差が認められた(p<0.05).AC群のJASPERとCobb角の関係については負の相関(r=-0.40, p<0.05)が認められた.NC群のJASPERとCobb角の関係については群より強い負の相関(r=-0.62,P<0.001)が認められた.
【考察】
本研究の結果,NC群とAC群のJASPERは有意差がみられず,Cobb角は有意差が認められた.この理由として,過去の運動機能による影響は,四肢の拘縮よりも,側彎に強く影響することを示唆していることが伺える.側彎の原因の一つとして,体幹の背筋群と側彎の関係が考えられる.学童期と成人期の側彎角度は背筋筋厚と相関することが報告されている.(大畑,南ら).過去に座位や移乗,移動能力を獲得している場合には背筋群の筋厚が高く,側彎の進行を妨げることが出来ていた可能性がある.AC群とNC群とのCobb角に有意差はこのために生じた可能性がある.またJASPERとCobb角の関係について,AC群,NC群ともに相関が認められ側彎の増大と四肢の拘縮はともに強くなることが示唆される.本研究の結果から,たとえその能力を失うことになるとしても座位や移動能力を高めることは側彎進行の予防の一つになると考えられる.しかし,拘縮についてはこれらの運動機能の獲得だけでは防止が困難であり,運動機能の獲得とともに拘縮予防として関節可動域練習やストレッチなどにより身体の柔軟性を高め,それを維持していくことが必要性ではないかと考える.
【理学療法学研究としての意義】
体幹側彎変形と拘縮との関係性について,運動機能によるこれらの影響を検討することで,今後の理学療法のアプローチの方向性の指標になると思われる.
著者関連情報
© 2011 日本理学療法士協会
前の記事 次の記事
feedback
Top