理学療法学Supplement
Vol.38 Suppl. No.2 (第46回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: OI1-030
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口述発表(一般)
地域在住高齢者におけるSitting Side Punch testと下肢筋力の関連について
淵岡 聡岩田 晃樋口 由美
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抄録
【目的】
高齢者のバランスや移動能力を反映する歩行速度や下肢筋力といった指標によって転倒リスクを予測し,転倒予防プログラムへの参加を促す取り組みが各方面で実施されている。しかし,歩行速度や下肢筋力は高齢者のADL低下や転倒リスクを予測する有用な指標であるが,高機能高齢者の状態を反映する鋭敏さは乏しい。
我々はより安全で簡便に省スペースで行え,高齢者の運動機能の微細な差異を鋭敏に検出できる検査方法を開発することを目的に,Sitting Side Punch testを考案した。本研究ではSitting Side Punch testと下肢筋力との関連について検討することを目的とし,有用な知見を得たので考察を加えて報告する。
【方法】
我々が地域在住の高齢者の健康増進に資することを目的に開催している身体機能測定会(自分の身体を測定する会)への今年度の参加者を対象に,身体機能測定と自記式アンケートによる調査を実施した。本研究で使用した測定・調査項目は身長,体重,下肢の等速性筋力(足関節底屈筋力・背屈筋力)およびSitting Side Punch testとした。等速性筋力の測定にはBiodex System 3を用い,測定側は右とした。測定肢位を座位にて右膝関節45~60°屈曲位に設定し,角速度30°/secと60°/secの2モードで最大努力による足関節の底背屈トルクを測定し,最大値を体重で除した値を百分率で記録し,底屈トルク体重比(PF30,PF60),背屈トルク体重比(DF30,DF60)として解析に用いた。Sitting Side Punch testは,椅座位にて両側方に設置した直径15cmの円形スイッチを左右交互に10回たたくのに要する時間を計測するものである。測定条件は以下の通りとした。高さ40cmの台上に椅座位を取らせ,両上肢を水平に側方挙上させた状態で指尖から10cm遠方で高さ75cmの位置にスイッチの中心が来るように左右両側に設置した。測定運動課題は,両上肢を側方に水平挙上した肢位を開始肢位とし,右側のスイッチからたたき始め,左右交互にできるだけ速くスイッチをたたくよう指示した。数回の練習の後に10回の反復動作(左右交互に5回ずつ)に要する時間を計測した。
結果の分析は,各測定項目間の単変量相関をみた後,年齢の影響を排除するため偏相関係数を算出し,Sitting Side Punch testと足関節筋力との関係について検討した。統計解析にはJMP 8を用い,有意確率は5%未満とした。
【説明と同意】
本学研究倫理委員会の承認を経た後、全ての対象者に本測定会の内容および測定データの使用目的について口頭ならびに書面を用いて十分な説明を行い、書面による任意の同意を得た。
【結果】
今年度の測定会に参加した142名(男性35名,女性107名)のうち,65歳未満の13名と,下肢筋力測定を完遂できなかった10名を除いた119名(男30名,女89名)を最終的な解析対象とした。対象の属性の平均値および標準偏差は,年齢73.7±5.6歳,身長153.6±7.0cm,体重51.6±8.6kg,BMI 21.8±2.9であった。足関節の底背屈筋力は同様にPF30が81.3±33.8%,DF30が34.0±7.5%,PF60が68.4±27.9%,DF60が28.6±7.0%であった。Sitting Side Punch testは同様に5.1±1.0秒であった。
Sitting Side Punch testと足関節筋力との関係は,PF30(r=-0.40,p<0.01),PF60(r=-0.50,p<0.01),DF30(r=-0.21,p<0.05)において有意な負の相関が見られた。Sitting Side Punch test,足関節筋力ともに年齢との相関がみられたため,年齢を制御変数としてSitting Side Punch testと足関節筋力との偏相関係数を算出したところ,PF30(r=-0.25,p<0.01),PF60(r=-0.35,p<0.01)において有意な負の相関がみられた。
【考察】
足関節底屈筋力は立位時のバランス保持能力や歩行速度との関連が報告されており,加齢による足関節底屈筋力の低下は歩行速度低下や階段昇降の安定性低下につながるとされている。地域で自立生活を営む高機能高齢者を対象とした今回の研究において,座位で行うSitting Side Punch testと足関節底屈筋力との間に負の相関が見られたことは,わずかな身体機能の低下を反映できる評価指標としてSitting Side Punch testの有用性を示唆するものと考えられた。
【理学療法学研究としての意義】
Sitting Side Punch testは高機能高齢者のわずかな運動機能低下を鋭敏に検出できるとともに,座位で実施できることから,立位や歩行が不安定な高齢者に対しても安全に実施できる有用性の高い検査であると考えられ,高齢者の健康増進や転倒予防においての活用が期待される。
著者関連情報
© 2011 日本理学療法士協会
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