理学療法学Supplement
Vol.38 Suppl. No.2 (第46回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: PI1-201
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ポスター発表(一般)
開排位での靴下着脱動作獲得に影響を与える関節可動域の特定
伊藤 咲子樋口 謙次木下 一雄下地 大輔日熊 美帆齋藤 愛子安保 雅博大谷 卓也
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抄録

【目的】
変形性股関節症(以下,OA)は,疼痛,関節可動域(以下,ROM)制限,歩行障害といった症状を呈し,日常生活活動(以下,ADL)低下につながる.OAに対する治療としては,近年,人工股関節全置換術(以下,THA)が施行され,多くの症例で術後に疼痛,歩行障害ADLの改善が認められている.しかし,ADLの中でも特に開排位での靴下着脱動作(以下,開排靴下着脱動作)は,その獲得に難渋する例を多く見かける.THA術後の開排靴下着脱に関与する機能的因子については,当院の木下らの研究(2008)において,股関節外旋可動域がその可否に大きく影響しているという結果をしめしているが,この研究では術前に既に開排靴下着脱が可能であった患者も含めて調査を実施している.そこで今回の研究では,術前に開排靴下着脱が不可能であった患者が,股関節・体幹可動性のうちどの可動域を改善することで開排靴下着脱動作を獲得できるのかを特定することを目的とした.

【方法】
対象は,当院整形外科にて初回片側THAを施行した症例のうち関節リウマチや中枢疾患の既往のある症例を除外し,術前に開排靴下着脱が不可能であった51例(女性40名,男性11名,平均年齢62.5±12.0歳)とした.更にこの対象を,術後開排靴下着脱動作を獲得した群(可能群n=29)と獲得できなかった群(不可能群n=22)に分類した.測定項目は術前,退院時における術側の股関節屈曲・外転・外旋ROMを計測した.ただし,外旋に関しては股関節屈曲90゜の測定肢位が取れない場合は最大屈曲位における外旋角度を測定した.また,体幹の柔軟性として体前屈を計測した.測定肢位は膝関節伸展位,足関節中間位で固定し,測定側の上肢を足趾方向に最大限伸ばし,中指と足底面との距離を計測した.術後の評価測定は退院時(概ね術後3週)に施行した.尚,当院における術式は全て後側方進入であり,屈曲ROM Ex.は90゜までに制限している.分析は,術前の股関節屈曲・外転・外旋ROM,体前屈について,開排靴下着脱可能群と不可能群の2群間で対応のないt検定を用い比較検討した後,術後の開排靴下着脱動作の可否に影響を与える因子を検討するために,目的変数を退院時の靴下着脱の可否(可:開排位での靴下着脱可能,否:開排位で不可能あるいはそれ以外の肢位で可能),説明変数を股関節屈曲・外転・外旋,体前屈とし,ロジスティック回帰分析(SPSS)を用いた.危険水準は5%未満を有意とした.

【説明と同意】
本研究ではヘルシンキ宣言に基づき,患者への説明と同意を得た上で測定を行った.データはカルテを後方視的に調査した.

【結果】
可能群のROM平均値は,術前が屈曲68.0±14.1,外転14.0±8.8,外旋28.0±16.9,体前屈-2.0±12.5であり,術後は屈曲78.1±9.6,外転23.6±6.1,外旋32.2±7.7,体前屈-5.2±10.6であった.不可能群のROM平均値は,術前が屈曲62.0±17.7,外転13.0±6.8,外旋28.0±16.9,体前屈-2.0±12.5であり,術後は屈曲76.4±13.2,外転19.5±8.4,外旋25.5±15.7,体前屈-4.2±13.0であった.術前の開排靴下着脱可能群と不可能群の間には,股関節屈曲・外旋・外転,体前屈のどの項目においても有意差を認めなかった.ロジスティック回帰分析では,股関節外旋・外転で有意であった.

【考察】
本研究では,開排靴下着脱可能群と不可能群の間に,術前の股関節ROMや体前屈で有意な差はみられず,平均値でも大きな差を認めなかった.このことから,術前の股関節・体幹可動域が術後の開排靴下着脱の可否に大きく影響しているとは考えにくい.また,術後の開排靴下着脱の可否に影響する要素を抽出した結果,股関節外転・外旋可動域が有意となった.これは,術前開排靴下着脱が不可能であっても,術後の股関節外転・外旋可動域向上が開排靴下着脱の可否に影響を与えることを示唆しており,股関節外転・外旋可動域の拡大が,開排靴下着脱動作への効果的なアプローチとなり得ると考えられる.

【理学療法学研究としての意義】
THA術後の開排位靴下着脱動作獲得には,術後の股関節外転・外旋可動域の改善が大きく影響していた.今後,術者ともこのような情報を共有し,術中の股関節外転・外旋可動域をコントロールすることで,より効果的に動作獲得を目指す事が出来ると考えられる.今後は,開排靴下着脱に最低限必要とされる股関節外転・外旋可動域の具体的な角度を示し,情報提供していきたい.

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© 2011 日本理学療法士協会
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