理学療法学Supplement
Vol.38 Suppl. No.2 (第46回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: PI1-202
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ポスター発表(一般)
人工股関節全置換術術後の脱臼に対する不安感に影響する因子について
吉田 宏史定松 修一伊東 孝洋田口 浩之
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キーワード: THA, 脱臼, QOL
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抄録
【目的】人工股関節全置換術(以下,THA)では、術後合併症に脱臼が挙げられる。脱臼に対しては、患者が長期にわたり不安を感じ、日常生活で肢位を考慮したり、介助や自助具を要することもあり、煩わしさも感じている。したがって、患者の脱臼に対する不安(以下,脱臼不安感)を理解し、その軽減に努めることは、QOL向上や脱臼予防に関わる理学療法士にとって重要である。そこで今回、退院時の脱臼不安感とQOLやリハビリテーションに対する満足度、大変さ、脱臼肢位理解度との関連を理解するため調査、検討した。
【方法】対象は2009年7月から2010年8月に当院にてTHAを施行し、本研究に同意を得られた47名47股関節である。平均年齢は69.98±11.68歳、性別は男性6名、女性41名であった。術前、退院時に脱臼不安感をVisual Analogue Scale(以下,VAS)にて評価し、また、最も不安に感じることについてアンケートを実施した。そして、退院時に脱臼肢位の理解度(以下,肢位理解度)をテストし正解の割合を求めるとともに、リハビリテーションに対する満足度(以下,満足度)と大変に感じた程度(以下,大変さ)をVASにて、健康関連QOLをMOS 36-Items Short-Form Health Survey(以下,SF-36)にて評価した。評価は、術前(術前平均1.11±0.39日)、退院時(術後平均32.62±2.62日)に実施し、脱臼不安感と各評価項目についてPearsonの相関係数を危険率5%未満として求めた。
【説明と同意】ヘルシンキ宣言に基づき、事前に本研究の目的と内容を十分に説明し、同意の得られた患者を対象とした。
【結果】最も不安に感じることは、多い順に術前では、疼痛38.84%、脱臼31.58%、転倒21.05%、歩行に関して10.52%、退院時では、脱臼70.83%、転倒20.83%、歩行に関して8.33%であり、退院時に脱臼に対して不安を感じる割合が増加した。
また、退院時の脱臼不安感との相関は、SF-36では、心の健康(r=-0.50、p<0.01)、日常役割機能(身体)(r=-0.48、p<0.01)、日常役割機能(精神)(r=-0.40、p<0.01)、社会生活機能(r=-0.33、p=0.02)、活力(r=-0.31、p=0.03)、体の痛み(r=-0.31、p=0.03)、身体機能(r=-0.30、p=0.04)で負の相関が、その他の項目では、大変さで正の相関(r=0.49、p<0.01)が、満足度で負の相関(r=-0.36、p=0.01)が認められた。術前の脱臼不安感や肢位理解度とは、相関は認められなかった。
【考察】THAの大きな目的のひとつに疼痛の軽減があるが、術後疼痛に対する不安は著しく減少しており、その意味では、患者の満足度は高いと思われる。THA術後の脱臼は、構造的にある程度避けられないことではあるが、脱臼予防指導により、その頻度を減少させることが可能である。脱臼肢位を理解し意識することは、脱臼予防の第一歩ではあるが、経過とともに不安感を軽減できるかどうかは、理学療法士に課せられた課題である。
退院時に最も不安に感じる項目に、脱臼を挙げる割合が70%を超えており、脱臼指導に関わる理学療法士にとっては、その解決のために理解を深めたい事項である。SF-36における多くの項目で脱臼不安感と負の相関が認められたことは、脱臼不安感の解消はQOLの改善に結びつくことを示している。また、脱臼不安感が高い場合、リハビリテーションに対する満足度が低く、リハビリテーションを大変だったと感じる傾向もあり、脱臼不安感が入院中のリハビリテーションに対する感じ方にも影響していることが分かる。
今回の結果では、肢位理解度と脱臼不安感との関係は小さく、単に肢位を指導し理解を深めるだけでは、精神的側面への効果は得られにくいことも分かった。また、術前と退院時の脱臼不安感の関係も小さく、術前に不安感が低い場合でも、患者の変化を観察し、対応することの必要性がある。特に入院中の活動の際に、心の健康や活力が低い、身体的、精神的に日常的役割が果たせない、また、疼痛により活動が妨げられている患者で、脱臼不安感の改善が得られにくく、身体的、精神的要素が相互に関連していることが理解できる。
今回、脱臼不安感の軽減のため、精神面への配慮も含めた包括的な対応が重要であることが示されたが、今後は、心理面を具体的にどのように捉え、対応していくべきかを検討する必要がある。
【理学療法学研究としての意義】THA術後では、脱臼不安感を有しているケースが多い。理学療法士は、肢位や動作を指導するとともに、その不安感の軽減を図るうえで中心的な役割を果たすべきである。また、理学療法にとって患者のQOL向上は大きな目的のひとつである。したがって、患者の脱臼に対する不安感を深く知り、脱臼不安感とQOLとの関連を理解することは、広い視点で患者の問題点を解決し、QOLの向上につながると考える。
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© 2011 日本理学療法士協会
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