理学療法学Supplement
Vol.38 Suppl. No.2 (第46回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: PI1-223
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ポスター発表(一般)
筋膜リリースの持続効果に対する検討(第一報)
勝又 泰貴竹井 仁若尾 和昭田中 進吾神田 友紀美崎 定也
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抄録

【目的】
筋膜リリース(Myofascial Release:MFR)は、筋膜のねじれを元に戻し、筋やその他の構造物の機能の正常化を目的として用いられる。第45回日本理学療法学術大会において我々は、MFR一度の効果は1日以上持続することを報告した。しかし、MFRのみを行うことでMFRの治療効果を維持する事は難しいと考える。そこで今回我々は、MFRを実施した筋の拮抗筋に対して、筋再教育目的を実施し、治療効果にどのような影響を与えるかを検討したので報告する。

【対象・方法】
対象者は体幹・下肢に既往のない健常者36名(男性16名、女性20名)とし、年齢・身長・体重の平均値(標準偏差)はそれぞれ25.0(3.8)歳、164.2(8.6)cm、56.2(9.8)kgであった。これら全被験者を男女均等に分けるため、準無作為に以下の4群各9名に分けた。1.MFRを施行した後、膝伸展運動を施行するMFR&exercise(MFRex)群、2.MFRのみ施行するMFR群、3.膝伸展運動のみ施行するexercise(ex)群、4.何も行わない対照群とした。筋膜リリースは大腿後面に対し、両側各180秒施行した。抵抗運動は、最大筋力予測式を用いて1 Repetition Maximum(1RM)を算出後、端座位にて下腿遠位部に1RMの50%相当の負荷を重錘で再現し、40回1Hzで行った。伸張反射の影響を取り除くため、運動は膝関節90°屈曲位から30°屈曲位の範囲で行った。測定は角度計(東大式)にて、自動・他動運動による下肢伸展挙上(Active/Passive Straight Leg Raising:ASLR/PSLR)をそれぞれ1度単位で、立位体前屈(Finger Floor Distance:FFD)を0.1cm単位で計測した。また、1 Isometric Maximum( 1IM)をハンドヘルドダイナモメータ(ANIMA社製ミュータスF-1)を用いて端座位、膝関節60°屈曲位にて、下腿遠位部に当て0.1kgf単位で計測し、1IM、体重、脚長(膝裂隙より下腿遠位部)よりトルク値を算出した。側定時期は、介入前・MFR後・抵抗運動後・1日後・2日後とした。測定は前向き無作為オープン結果遮断試験(PROBE法)にて行い、MFRおよび抵抗運動を施行しない群も施行時と同様の時間を空け測定した。

【分析方法】
年齢・性別・身長・体重・介入前の各測定項目(ASLR・PSLR・FFD・トルク値)で調整した、反復測定による共分散分析を行った。ASLRとPSLRの左右差は対応のあるt検定を行いその影響について検討した。その後、各測定時期における群間の差はTukey HSD法で、各群における各測定時期の差はBonferroni法で解析した。有意水準は5%とした。統計解析ソフトはSPSS ver.12を用いた。

【説明と同意】
対象者にはヘルシンキ宣言に基づき、事前に本研究の目的と内容および学会発表に関するデータの取り扱いについて説明し、十分に理解した上での同意を得て実施した。

【結果】
調整した項目について交互作用は認められなかった。一方、ASLR・PSLR・FFDの群間と測定時期に交互作用を認めた。ASLRとPSLRの左右差については有意差を認めなかったため、全被験者のASLRとPSLRの結果を左右平均して取り扱った。トルク値、および、各測定時期における群間の差に有意な差を認めなかった。各測定時期の比較では介入前と比較し、MFRex群ではASLR・PSLR・FFDで2日後まで有意な増加を認めた。MFR群ではASLRで2日後まで有意な増加を、PSLR・FFDで1日後まで有意な増加を認めた。ex群ではPSLRで抵抗運動後のみ有意な増加を認めた。対照群ではどの測定結果にも有意な差を認めなかった。

【考察】
MFRの効果としては、我々の先行研究同様に1日以上持続した。MFRex群では、2日以上持続する結果となった。トルク値に有意差がなかったことや、MFRex群のMFR後とex後の結果に有意差がなかったことから、ASLR・PSLR・FFDの増加が筋力増強作用によるものでないと判断できる。また、ex群でのPSLRにおける抵抗運動後の有意な増加は、大腿四頭筋の筋収縮による相反抑制にてハムストリングスの伸張性が向上したものと考えられるが、増加は一時的である。このことから、MFRex群の有意な増加が2日以上に延長したことは、ハムストリングスに対してMFRの治療効果と相反抑制の相乗効果が生じたためと考える。治療時には、筋膜の動きを評価しねじれのある部位に対しMFRを施行する。ねじれのある部位周囲の筋は短縮位であり、その筋と拮抗する筋は伸張位にあると考えねじれに対しMFRを行う。MFRに伸張筋の相反抑制を利用することで、より動筋・拮抗筋のバランスが取れ協調した動きを得られるようになる、すなわちMFRの持続効果を延長することができると考える。

【理学療法学研究としての意義】
報告の少ないMFRの効果を明らかにすることでその有用性を証明すると同時に、臨床においてより効率的かつ有効な理学療法を提供することができるようになると考える。

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© 2011 日本理学療法士協会
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