理学療法学Supplement
Vol.38 Suppl. No.2 (第46回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: PI1-233
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ポスター発表(一般)
変形性股関節症に対する理学療法が片脚立位に与える影響
股関節回旋肢位の違いによる比較
羽田 清貴奥村 晃司杉木 知武川嶌 眞人
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抄録
【目的】変形性股関節症(以下,変股症)の治療効果を示す指標として,臨床では一般的に片脚立位が用いられ,動作方略や時間的要素を股関節外転筋群の量的指標から判定している場合が少なくない.しかし,変股症患者の中には筋力があるにも関わらず片脚立位が困難な症例も散見される.今回,変股症患者の片脚立位を股関節中間位(以下,中間位),股関節内旋位(以下,内旋位),股関節外旋位(以下,外旋位)の3肢位にて理学療法介入前後の変化を表面筋電図(以下,EMG)により比較検討した.本研究の目的は,変股症に対する理学療法の有効性を明らかにすることである.

【方法】対象は保存療法目的の変股症患者5名(女性,平均年齢56±8.0歳).課題動作は,両上肢を前方に組んだ立位にて,患側下肢の片脚立位を中間位,内旋位,外旋位の各々にて約3秒間実施した.課題動作における姿勢戦略や健側下肢の挙上方法について,特に規定せず被験者の任意とした.EMGの計測はメディアエリアサポート社製EMGマスターKm-104を用い,サンプリング周波数は1000Hzとした.被検筋は患側の中殿筋,大腿筋膜張筋,大殿筋の計3筋とした。中殿筋の電極は,腸骨稜と大転子を結んだ線上の中点に,大腿筋膜張筋の電極は,上前腸骨棘から大腿近位1/3の前外側面を結んだ線上の中点に,大殿筋の電極は,上後腸骨棘と大転子後面を結んだ線上の中点に,それぞれ収縮させて筋腹を確認し,電極間距離3cmで皮膚に貼付した.解析に関しては,健側下肢の足底が離床して,動作が安定した中2秒間を解析区間として積分処理した.そして,各筋の理学療法実施前における相対筋電図(以下,%IEMG)の値を100%として,理学療法実施後の変化率を算出した.なお,理学療法介入は徒手にて股関節周囲のリラクセーションを実施し,股関節の機能的連結の改善を目的とした運動療法を20分間実施した.

【説明と同意】本研究はヘルシンキ宣言に基づき,被験者に本研究の趣旨を十分説明し,同意を得た.また,当院の倫理員会の承認を得て実施した.

【結果】理学療法実施後の各筋の変化率は中間位では,大腿筋膜張筋は91.4±28.8%と減少傾向が認められ,中殿筋は101.5±21.3%,大殿筋は118.2±53.8%と増加傾向が認められた.外旋位では,大腿筋膜張筋は84.3±27.3%,中殿筋は85.8±21.8%と減少傾向認められ,大殿筋は104.5±57.8%と増加傾向が認められた.内旋位では,大腿筋膜張筋は74.2±27.3%,中殿筋は98.0±4.3%と減少傾向が認められ,大殿筋は109.2±39.8%と増加傾向が認められた.

【考察】変股症患者の治療実施において,最も難渋する問題として二関節筋である大腿筋膜張筋の過緊張の改善である。また病期の進行に関わらず大腿筋膜張筋に依存した動作戦略を行っていることをしばしば経験する.その反面,大殿筋単独の収縮や弛緩の制御が極めて困難であり,脊柱起立筋やハムストリングスの過剰収縮を伴うことが多い.今回の結果より,理学療法実施後の大腿筋膜張筋の%IEMGの変化率は,股関節回旋肢位の違いに関わらず軽減する傾向が認められた.また,大殿筋の%IEMGの変化率は,股関節回旋肢位に関わらず増加する傾向が認められた.大腿筋膜張筋の変化率は内旋位で最も大きかった.これは,治療実施により大腿筋膜張筋の過剰収縮が適正化されたことと推察した.大殿筋の変化率は中間位で最も大きく,大殿筋は股関節回旋中間位で,最も活動性が高まることが示唆された。諸家は,片脚立位保持には股関節外転筋である中殿筋の収縮のみではなく,中殿筋と大殿筋の協調的な収縮の重要性を報告している.以上のことから,大腿筋膜張筋のリラクセーションや体幹-骨盤-股関節の機能的連結を促すような理学療法は,片脚立位保持における大腿筋膜張筋の活動を低下させるとともに,大殿筋の活動を高かめ,股関節における構造的安定化及び筋の能動的な安定の改善に有効であったと推察した.

【理学療法学研究としての意義】本研究の意義は,変股症に対する理学療法の有効性について,股関節回旋肢位の違いによる片脚立位を臨床指標とし,EMGを使用して検討することである.今回の結果から,股関節外転筋群の訓練だけでなく,患者個々の股関節機能を姿勢や動作から評価し,体幹と下肢を機能的に連結するための股関節機能改善を目的とした理学療法を実施することの有効性が示されたと考える.今後は,変股症の重症度による比較や股関節機能判定基準、歩行能力等との関連性について検討し,変股症に対する理学療法の長期的な効果を検証していく必要があると考える.
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© 2011 日本理学療法士協会
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