理学療法学Supplement
Vol.38 Suppl. No.2 (第46回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: PI1-253
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ポスター発表(一般)
腰椎椎間板ヘルニアにおける罹患期間とうつ,痛みの強さとうつとの関係
遠藤 雅之大友 篤小林 舞子小野寺 真哉伊達 久
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キーワード: 慢性疼痛, うつ, 罹患期間
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抄録
【目的】慢性疼痛は,3カ月間以上の持続または再発,急性組織損傷の回復後1カ月以上の持続,あるいは,治癒しない病変の随伴がみられる疼痛である。
急性疼痛から慢性疼痛に移行する上で、局所的要因から生じたものが長期間経過することにより全体的要因に変化し、痛みを複雑化させてしまう。慢性的な痛みは、身体機能を低下、また、抑うつや不安を引き起こし、睡眠を妨げ、日常活動の多くを阻害しうるといわれている。
慢性疼痛を抱える人の約18%がうつ病を合併しているとの報告もある。うつ病になることで治療に対する意欲低下などの問題が生じ、理学療法などの治療に影響を与えることがある。痛みが長期化することで抑うつ傾向となり、更なる痛みの増悪につながってしまうといった痛みの悪循環を引き起こしてしまう。
慢性疼痛による腰痛関連機能障害は心理・社会的因子が深く関与しており、治療とリハビリに対する患者の反応に早期に影響を及ぼすといわれている。また、腰痛の発症原因に関する研究では、仕事の満足度や精神的ストレスなどの要因も腰痛の発症に影響しているとの報告がある。
腰部疾患として臨床上、数多くの疾患がある。その中でも腰椎椎間板ヘルニアは現代病と言われており、10代から60代に多く、勤労者が占める割合が高いとの報告がある。
今回、腰椎椎間板ヘルニアにおける罹病期間とうつ症状、NRSとうつ症状の関係を検討する。
【方法】当院を受診し理学療法を施行した65歳未満の腰椎椎間板ヘルニア患者154名(男性81名 女性73名) 年齢(男性43.25±11.88歳、女性44.74±11.85歳)を対象に、自己評価抑うつ性尺度(SDS:self rating-depression-scale)、罹患期間、数値的評価尺度(NRS:numerical rating scale)、仕事の有無・合併症の有無・睡眠の質を測定した。
罹患期間を短期群(≦12ヶ月) 中間群(13-36ヶ月) 長期群(37ヶ月≦)の3つに分類した。また、NRSも同様に低値群(0-5) 中間群(6-7) 高値群(8-10)に分類し、罹患期間・NRSをそれぞれ独立変数、SDSを従属変数とした共分散分析を行った。共変量は性別、年齢、合併症の有無、仕事の有無、睡眠の質とした。
【説明と同意】本研究をするあたり、対象者に検査者が説明し理解を得られ同意を得た。
【結果】罹患期間を3群に分けたときのSDSは短期群で76名(調整後平均値37.46[95%CI:35.64-39.28])であり、中間群で40名(40.47[95%CI:38.14-42.81])、長期群で38名(43.92[95%CI:41.24-46.60]) (傾向性p値=0.000)となり、罹患期間が長くなればSDSが上昇した。また、NRSを3部位に分けたときのSDSの低値群は52名(36.67[95%CI:34.50-38.84])であり、中間群は54名(40.98[95%CI:39.10-42.86])、高値群は48名(41.98[95%CI:39.31-44.65]) (傾向性p値<0.01)となり、NRSが高値になると、SDSが上昇するとことがわかった。
【考察】本研究結果より罹患期間の長期化とうつ症状に有意差がみられ、また、痛みの強さとうつ症状にも同様に有意差がみられた。罹患期間の長期化と痛みの強さがそれぞれ、うつ傾向を高める要因であることが明らかになった。
このことから局所的要因から生じたものが長期間経過することにより全体的要因に変化し、痛みとうつ症状を高めるといった慢性疼痛サイクルのような痛みの悪循環が生じていることがわかった。
理学療法を施行する上で慢性疼痛患者自身の心理的側面を考慮する事が大切であると思われる。痛みが長期化・痛みの強さが増悪することで心理面の問題が強まり、理学療法の介入が困難になる。機能訓練を中心とする病院が多い傾向であるが、理学療法介入時には心理的側面などに対する他覚的所見へのアプローチも必要であると考える。慢性疼痛患者はうつ傾向にあり、痛みに対する訴えが強い。そのため、理学療法施行する際には、慢性疼痛患者が抱えている心理的な問題を考慮する必要がある。
【理学療法学研究としての意義】慢性疼痛では、理学療法施行するにあたり、心理的側面の考慮が必要である。
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© 2011 日本理学療法士協会
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