理学療法学Supplement
Vol.38 Suppl. No.2 (第46回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: PI1-293
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ポスター発表(一般)
アキレス腱付着部断裂後に縫合術及び人工靱帯補強術が行われた1症例に対する理学療法
櫻田 圭介嶋田 誠司岸野 美代子佐藤 嘉寿佐藤 陽介筒井 聖也三浦 俊哉
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抄録

【目的】アキレス腱付着部断裂(以下、付着部断裂)の特徴として、森谷は発生率がアキレス腱断裂中1%以下と稀であること、今村は腎不全や糖尿病による腱の脆弱性が基盤にあること、君島は保存療法では治癒せず、端端縫合も不可能なことを挙げている。この付着部断裂に関し我々が渉猟し得た範囲では、医師の手術報告は散見するが、術後理学療法の報告はなかった。今回我々は、付着部断裂後に縫合術及び人工靱帯補強術が行われ、術後理学療法を施行した症例を経験した。そこで、術後プログラム(以下、PG)を紹介すると共に本症例を通して得た知見を報告する。
【方法】カルテによる後方視的調査を行い、本症例の経過を報告する。
1.現病歴・既往歴。症例は50代男性。既往歴は、20代で慢性腎不全(以後、週3回血液透析)、50代で破壊性腰椎関節症(当地大学病院で手術、以後T字杖歩行)である。現病歴は、平成22年1月、40cmの台上で荷物の整理中に右足を踏み外し床に接地し断裂音と共に歩行不能となった。当院救急外来受診し、MRI(放射線技師が撮影)にて右付着部断裂と診断された。 5日後、縫合術(mitek super anchor)及び人工靱帯補強術(Leeds‐Keio)が施行され、その翌日より理学療法依頼となった。
2.術後PGの紹介。PGは当院のアキレス腱実質部縫合術を基本とし、そこから3~4週遅らせる形で作成した。固定は、術後はギプス固定、術後3週から市販のアキレスブーツ(以下、ブーツ)を使用し足関節背屈-40度保持、5週から-30度、6週で-20度、7週で-10度、8週で角度フリー、12週でブーツ除去とした。ROM練習は、術後3週よりホットパックによる温熱療法の後、足関節底背屈開始、8週より内外返し開始、10週より自重にて行った。筋力強化は、下腿三頭筋は術後3週から自動運動を開始、5週からセラバンドで弱い抵抗をかけ、その後漸増しながら、10週で両脚カフレイズ、11週で片足カフレイズとした。下腿三頭筋以外は、術直後からSLRや逆SLRや股関節外転などを行い、8週から内外返しを開始し、9週からハーフスクワット、10週からスクワットを開始した。荷重は、術後4週から1/4荷重、5週で1/3荷重、6週で1/2荷重、7週で2/3荷重、8週で全荷重とした。
【説明と同意】報告に当たり、目的及び内容を説明し、患者本人から同意を得た。
【結果】右足関節背屈ROMは、術後3週で-10度、5週で-5度、7週で0度、10週で5度となり左右差が無くなった。内返しROMは術後8週で40度、11週で65度となり、ほぼ左右差が無くなった。外返しは、術後8週で左右差が無かった。歩行は術後4週からブーツを使用し1/4荷重で平行棒内40m、6週で1/2荷重両松葉杖100m、8週でT字杖180m、12週でブーツ除去下T字杖500m可能となった。最終的に術後12週で理学療法終了となり、術後4.5カ月のMRI(放射線技師が撮影)で良好な経過が確認でき、5.5カ月のMMTで右下腿三頭筋が正常となった。
【考察】付着部断裂への縫合術単独の報告では、中路はROM練習・歩行練習を術後6週から開始し、林はROM練習を4週、歩行練習を6週から開始している。一方、当院の縫合術及び人工靱帯補強術では、ROM練習を術後3週から、歩行練習を術後4週から開始しており、これは強固な固定のためにより早期に術後理学療法が可能であったものと考える。付着部断裂の問題点として、喜多島は骨面からの血行がないこと、当院医師は実質部に比べ治癒しにくいため慎重な術後理学療法が必要なことを挙げている。そこで我々は、実質部の縫合術後よりもPGの開始時期を遅らせること、特に足関節内・外返しは負荷が内外側で不均等になる可能性が否定できず再断裂の危険を伴うため、より後期に開始することが重要と考えた。実際に我々は医師と検討し、実質部の断裂と比較し付着部断裂の術後PGは概ね3~4週遅らせて作成した。その結果、ROM練習の開始時期が3週と遅くなることで足関節背屈制限が出現し、4週の歩行開始時期に足関節背屈が-10度であり、歩行での再断裂の危険性があった。そこで、ブーツの併用により足関節背屈ROMに合わせ補高を用い角度を制御したところ、安全に歩行練習を進めることができた。またROM練習は、初期は底背屈のみから開始し、内外返しは遅延させた。これらの結果、再断裂を起こさずに、良好な歩行能力と足関節ROMを獲得できたもの考える。
【理学療法学研究としての意義】一症例の報告から、稀であるアキレス腱付着部断裂術後理学療法の検討材料になることを期待する。

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© 2011 日本理学療法士協会
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