理学療法学Supplement
Vol.38 Suppl. No.2 (第46回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: PI1-292
会議情報

ポスター発表(一般)
人工靭帯を用いた大腿四頭筋腱断裂術後の1例
膝関節機能回復に着目して
小西 彩香三木 晃横田 淳司熊田 仁
著者情報
会議録・要旨集 フリー

詳細
抄録

【目的】大腿四頭筋腱断裂に対する術後理学療法の報告は少ない。大腿四頭筋断裂の手術方法としては、単純縫合、ワイヤーにて補強した縫合、膝蓋骨へのアンカー作成、人工材料の使用などがあるが、今回は人工靭帯を用いた手術が行われた。人工靭帯を用いた手術は、人工靭帯を8の字状に縫合する冨士川法が一般的だが、今回はさらに強固な固定を得ることを目的に、膝蓋骨に開けた骨孔を通して縫合する手法Krackow stitchを用い、その縫合糸に人工靭帯を使用した。術後理学療法の結果、関節可動域(以下ROM)、筋力共に良好な回復がみられたため、その理学療法プログラム及び経過について報告する。
【方法】<症例紹介>右大腿四頭筋腱断裂後、約4ヶ月間の理学療法を行った症例である。以下に詳細を記載する。72歳男性。散歩中に足を滑らせ、右膝強制屈曲位にて地面に着き、右大腿四頭筋腱断裂を受傷。受傷後、疼痛自制内であり、自己にて経過観察していたが、疼痛増悪したため、当院整形外科受診し、右大腿四頭筋腱断裂と診断された。受傷から20日後に手術施行となった。断裂は大腿四頭筋腱の完全横断断裂で、膝蓋骨の上位一部骨片が剥離していた。<手術方法>剥離骨片を摘出後、膝蓋骨にドリルで4か所計8個の骨孔を作成した。断裂部の縫合はKrackow stitchが選択された。まず、人工靭帯(Telos2mm)を大腿四頭筋に通し、遠位方向に連続縫合を行い、断裂腱を強固に把持するようにした。続いて、人工靭帯で把持した断端を下方に引き下げ、膝蓋骨に開けた骨孔を通した後、膝蓋骨下縁で縫合した。その後、非吸収糸(Hi-Fiスーチャー)3本を用いて、同じ要領で大腿四頭筋腱を縫合補強された。手術後は、膝関節10°屈曲位で大腿中央部から内外果まで2週間のギプス固定が行われた。<理学療法経過とアプローチ>翌日より、完全免荷での松葉杖歩行訓練、患側股関節、足関節の筋力維持訓練を開始。2週間後にギプス除去となり、軟性装具装着となった。訓練後には炎症抑制のため、アイシングを行った。また、右膝自動介助下でのROM訓練、膝蓋骨モビライゼーションを開始した。3週目で退院し、週3回の外来通院に変更した。4週目より1/2荷重開始。同時に大腿四頭筋ストレッチを開始。ストレッチは筋腱移行部に加え、筋腹部へのダイレクトストレッチも併用した。5週目より2/3荷重、T字杖歩行訓練開始。大腿四頭筋自動運動にて筋力増強訓練開始。6週目で全荷重開始し、独歩訓練開始。7週目に、階段降段時の不安定感を認め、スクワット等のclosed kinetic chainでの筋力増強訓練を取り入れた。16週目から、趣味のダンス復帰に向けて、徐々にダイナミックな競技特性に応じた動作訓練を開始した。
【説明と同意】対象症例に対する倫理的配慮として、発表内容および発表目的等について十分説明して文書により承認を得た。
【結果】膝関節屈曲ROMは、術後4週目100°、5週目125°、7週目140°、12週目で最終域にてやや抵抗感見られるも、膝関節屈曲160°まで獲得した。しかし、正座は16週目の時点では獲得できていなかった。筋力は、5週目で膝関節伸展4レベルであったが、-15°のエクステンションラグを認めた。最終域での筋力増強訓練を続け、10週半でラグを認めなくなった。6週半で独歩可能となり、11週の時点で階段昇降が独力で可能になった。
【考察】今回、大腿四頭筋腱断裂に対して人工靭帯を用いた術後の理学療法を経験した。術後12週で抵抗感は残るものの、膝関節屈曲160°のROMを獲得できた。その要因としては、まず縫合法Krackow stitchを用いたことによって強固に断端が縫合されたことから、早期に膝蓋骨モビライゼーションを開始できたことが一点考えられる。術後3週目に開始した膝蓋骨モビライゼーションによって、腱縫合部と軟部組織の伸張性が保たれ、膝蓋骨の滑走を維持できたことが、良好なROM獲得に繋がったと考えられる。その他、術部の炎症に配慮し、ギプス除去後から積極的なアイシングを行った。炎症を鎮静化し、疼痛抑制することによって十分なストレッチを施行できた。さらに、ストレッチ施行時には、術部である筋腱移行部にストレスを加えないように配慮し、大腿四頭筋筋腹へのダイレクトストレッチを多用した。その結果、術部の疼痛や再断裂等を起こすことなく良好なROM獲得に至ったと考えられる。
【理学療法学研究としての意義】本症例を通じて、類似疾患に対するアプローチ方法や予後予測の一助となるであろうと考える。

著者関連情報
© 2011 日本理学療法士協会
前の記事 次の記事
feedback
Top