理学療法学Supplement
Vol.38 Suppl. No.2 (第46回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: PI1-299
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ポスター発表(一般)
超音波画像診断装置を用いた足底腱膜厚の特徴
中島 明子山路 雄彦七五三木 好晴渡邊 秀臣
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抄録

【目的】
近年、超音波画像処理技術の飛躍的な進歩に伴い、超音波画像診断装置は骨、筋、腱、靭帯、血流などの評価を可能にし、整形外科分野で幅広く用いられている。われわれは第45回日本理学療法学術大会において、超音波画像診断装置を用いて健常若年者を対象に足底腱膜厚の評価を行い、臨床的有用性が高いことを報告した。
一方、足底腱膜の過度な張力負荷が原因で生じる足底腱膜炎は一般的に40-60歳で起こりやすいとされている。そこで、本研究では動態の観察が可能である超音波画像診断装置を用いて年齢別に足底腱膜を評価し、健常者の足底腱膜の特徴を明らかにすることを目的とした。
【方法】
対象は健常若年者16名(平均年齢25.6±4.6歳、以下若年者群)、健常高齢者16名(平均年齢72.0±8.1歳、以下高齢者群)とした。計測には超音波画像診断装置(GE社製LOGIQ BookXP Series、Bモード、8MHz)を用い、超音波プローブを踵骨隆起から第一中足骨を結ぶ線に平行に当て、長軸方向にて足底腱膜内側部を抽出した。測定部位は踵骨より1cm末梢部(以下、踵骨部)とし、母趾中間位と背屈位の2条件にて足底腱膜厚を計測した。左右ともに3回ずつ計測し、平均値を求めた。統計学的分析では、信頼性の検討に級内相関係数(以下、ICC)を用い、母趾の肢位別の比較、左右差の検討には対応のあるt検定を用いた。また、足底腱膜厚の群間比較、母趾背屈における足底腱膜厚の差の群間比較にはt検定を用いた。なお、有意水準は5%未満とした。
【説明と同意】
対象者全員に研究の趣旨及び方法を説明後、同意を得た上で計測を行った。
【結果】
踵骨部の足底腱膜は表層では高エコー、深層では低エコーとして描出された。ICC(1,1)は若年者群で0.903、高齢者群0.947であった。足底腱膜厚の平均は若年者群で母趾中間位:2.41±0.38mm母趾背屈:2.32±0.30mm、高齢者群では母趾中間位:2.36±0.39mm母趾背屈位:2.21±0.36mmであり、高齢者群と若年者群ともに母趾背屈により有意に薄くなった(p<0.05)。若年者群と高齢者群で足底腱膜厚、母趾背屈における足底腱膜厚の差に有意な差はみられなかった。また、どちらの群でも左右差は認められなかった。
【考察】
足底腱膜は踵骨隆起の内側突起に起始し、中足骨骨頭部付近で分岐して第1-5趾の基節骨に停止している強靭な腱組織である。踵骨部の足底腱膜は組織学的に表層の線維配向性が張力方向であるのに対し、深層は網目状であると報告されている。そのため、本研究において足底腱膜の表層は高エコー、深層は低エコーとして描出され、足底腱膜の境界線が鮮明となり、高い信頼性が認められたと推察する。
また、足底腱膜厚は年齢による差がみられなかったことから、健常者の足底腱膜厚は年齢に影響されないことが示唆された。さらに、母趾背屈による足底腱膜厚の差においても年齢による差は認められず、高齢者においても母趾背屈での伸張ストレスにより足底腱膜厚は有意に薄くなり、ウインドラス機構が有効にはたらいていることが示唆された。
【理学療法学研究としての意義】
足底腱膜炎患者は、足底腱膜とその周囲の炎症を認め、踵部痛を生じ、身体機能に多大な影響を及ぼす。以前は病歴と限局性の圧痛をみつけることが典型的な診断となり、足底腱膜炎の診断に対する認められた標準検査は報告されていなかったが、近年超音波画像診断装置が足底腱膜炎のための診断方法として一般的になりつつある。Muratらは足底腱膜炎患者の踵骨部では症候側で平均4.75±1.52mm、無症候側で平均3.37±1.0mm であり、足底腱膜炎の症候側は有意に厚くなると報告している。
本研究での結果から、超音波診断装置での足底腱膜厚の信頼性は高く、健常者の足底腱膜において年齢による変化や左右差は認められないことが示唆された。このことから、足底腱膜炎などの足底腱膜厚に異常をきたすとされている疾患において超音波検査法は簡便でタイムリーな評価が可能となり、臨床的意義は高いと考えられる。

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© 2011 日本理学療法士協会
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