理学療法学Supplement
Vol.38 Suppl. No.2 (第46回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: PI1-314
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ポスター発表(一般)
片脚立位時の骨盤傾斜角度と股関節内外旋可動域との関連の検討
横田 裕丈野瀬 友裕吉岡 慶吉沢 剛
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抄録
【目的】
外来診療における整形外科疾患を扱う我々理学療法士にとって,立位時の骨盤位や動作時における骨盤,股関節の安定性あるいは可動性は,評価時の指標として重要であると考える.股関節は,骨盤側の臼蓋と大腿骨側の大腿骨頭により形成され,構造的にも機能的にも密接な関係があることは良く知られている.身体的障害を引き起こす身体の要素を,構造と機能という二つの側面から捉え,評価し,治療をしていくことは,日々の臨床で結果を出していく上で非常に重要である.そこで今回,骨盤と股関節の間において,構造的な要素である股関節可動域と片脚立位という機能的動作との関係について検討したのでここに報告する.
【方法】
対象は,整形外科的,神経学的既往のない健常成人男子7名で,年齢は22歳から31歳,平均25±3.6歳,平均身長173.4±6.2cm,平均体重72.9±11.8kgであった.利き足は,踏み切り足と規定し,全被検者左足であった.骨盤傾斜角は,上前腸骨棘と上後腸骨棘結んだ線と床面との平行線のなす角と規定した.実際の計測は,股関節回旋可動域については頸骨粗面と内外果の中点に,骨盤傾斜角の測定は,上前腸骨棘と上後腸骨棘にそれぞれマーカーを貼付し,デジタルカメラにて撮影した.その画像を画像解析ソフトScion Imageにてコンピュータ上で解析し,角度を計測した.測定肢位は,股関節可動域はベッド上腹臥位,股関節屈伸・内外転0°,膝関節屈曲90°とし,骨盤傾斜角は,両上肢は体側に自然下垂位,足部は肩幅に開き,開扇角は任意とした.まず自然立位における傾斜角度を測定し,次に測定側と反対側の下肢を,足関節下垂させた状態でつま先が地面から離れる程度まで挙上させた状態を片脚立位肢位とした.この時,股関節と膝関節の屈曲は最小限に抑え,大腿部と下腿部の質量中心が概ね揃う様にも注意した.また,自然立位時の骨盤傾斜角度から片脚立位時の骨盤傾斜角度を引いた値を骨盤傾斜角変化値(以下,変化値)と規定し,その値が正の値であれば骨盤が後傾し,負の値であれば前傾したことを意味するようにした.股関節の内旋,外旋可動域の全可動域に占める割合を算出するために,股関節の内旋可動域と外旋可動域を全可動域,すなわち内旋可動域と外旋可動域の和で除した値の百分率を,それぞれ%内旋可動域,%外旋可動域と規定し,変化値との間での相関の有無を検討した.統計処理にはピアソンの相関係数を用い,有意水準は5%未満とした.
【説明と同意】
計測の前に,被験者に対して,書面で本研究の目的と個人情報の使用とその保護の遵守をする旨を伝え,署名にて同意を得た.
【結果】
自然立位から片脚立位に移行する際,骨盤が前傾したものが4名,後傾した者が3名で,その範囲は-2.0度から3.5度,平均0.8±2.3度であった.%股関節内旋可動域が大きくなると変化値は増加した.すなわち,前傾した者の変化値は%股関節内旋可動域に比例して0に近づき,さらに%股関節内旋可動域が増えるにつれて骨盤は後傾した.この利き足側の%股関節内旋可動域と骨盤傾斜角の変化値との間には正の相関(r=0.69)が認められた(P<0.05).
【考察】
股関節全可動域に対する内旋可動域が大きいほど,立位時に比較して片脚時の骨盤前傾が小さくなる,あるいは後傾する傾向が示唆される.内旋可動域が大きいということは,外旋筋群の緊張が低いことが予想される.骨盤を前傾させて大殿筋群の緊張により体重を支持するよりも,骨盤を後傾させて相対的に股関節を伸張させ,強固な腸骨大腿靭帯の張力による支持を最大限に利用しようとする戦略であると考える.反対に,内旋可動域が小さい場合には,骨盤を前傾させて相対的に股関節を屈曲し,外旋筋群を緊張させることによる支持が可能であると考える.しかしながら,片脚立位時に股関節は骨盤以上の上半身を支持するため,上半身の姿勢の違いによる重心位置や体幹筋群の筋力など,様々な影響を受けることが考えられる.今後,上半身の構造や機能的要素が骨盤傾斜に及ぼす影響についても調査していく必要がある.また,今回は骨盤の矢状面上での傾斜反応のみに着目したが,前後方向への変位や前額面上での傾斜,水平面上での回旋についても併せて追及していく必要があると考える.
【理学療法学研究としての意義】
身体的障害を引き起こす身体の要素を,構造と機能という二つの側面から捉え,評価し,治療をしていくことは臨床上非常に重要であると考える.両者は互いに密接な関係にあり,今回片脚立位という機能的動作における股関節内外旋可動域という構造的要素の影響について若干の知見を得た.関節可動域測定という基本的理学療法評価が,機能障害を理解する上で重要であることを再認識する結果となった.
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© 2011 日本理学療法士協会
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