理学療法学Supplement
Vol.38 Suppl. No.2 (第46回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: PI1-332
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ポスター発表(一般)
脛骨内旋位でのレッグプレス運動が健常者の歩行中の足底圧分布および膝関節回旋可動域に及ぼす効果
外間 源亮生田 太蒲田 和芳
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抄録

【目的】
変形性膝関節症(膝OA)は65歳以上の高齢者で推定13%を占める。膝OAの保存療法は様々であり、一定の効果が得られることが実証されてきた。しかし、膝OAに対する既存の保存療法は症状改善を得る可能性はあるが、進行を遅らせるという根拠は得られていない。
膝OAでは、スクリューホーム運動の異常(Koga 1998)や、脛骨外旋の増大(Saari 2005)が認められる。また、膝OAにおいて歩行の初期接地から立脚中期で足底圧中心(COP)が健常群と比較して外側にある(Roy 2010)。当研究室では、下腿外旋アライメント異常に対して、関節の遊びの大きい膝関節屈曲域で正常キネマティクスを回復させることを意図し、下腿内旋位を保持しつつ膝関節屈曲・伸展できる軽量・小型のレッグプレス装置「リアライン・レッグプレス」(GLAB社製)を開発した。これは、下腿の内・外旋を自動または他動的に誘導しつつ下肢の屈伸を行うことができ、膝関節屈曲域の下腿内旋を効果的に誘導できる。本研究では、健常膝におけるリアライン・レッグプレスを用いた下腿内旋もしくは外旋運動が、膝関節の回旋可動域および歩行中の足底圧分布にどのような変化をもたらすのかを明らかにすることを目的とした。
【方法】
対象者の選択基準は、18-30歳の健常女性、下肢に外傷の既往がないこととした。同意書に署名した20名の対象者は、内旋運動群と外旋運動群に無作為に均等に割りつけられた。
介入はリアライン・レッグプレスを用い、椅子座位(股関節・膝関節屈曲90°位)にて実施した。まず、下腿内旋もしくは外旋運動を、次に下腿最大内旋位または最大外旋位を保持した状態でのレッグプレス運動を実施した。反復回数は1セット30回とし、2週間で合計10セット行った。
測定項目は、自動下腿回旋可動域、歩行中のCOP軌跡の側方偏位量とした。下腿回旋可動域の測定は、信頼性が検証された簡易型下腿回旋可動域測定装置を用いた。対象者は、椅子座位・股関節および膝関節90°屈曲位とし、その大腿部は椅子に固定され、さらに足関節を固定するためにAir Cast bootsを装着した上で足部を回転盤に固定した。歩行中のCOP軌跡については、pedar社の足圧分布測定装置を用いて計測を行った。各対象者のランドマークを、1:母趾MP関節、2:舟状骨結節、3:1と2の中点、4:踵として記録した後に、トレッドミル歩行中の足底圧を記録した。足底圧が安定した10歩のデータの平均値を解析した。各ランドマークを通る足部横軸に対してCOPとの交点をとり、介入前後の側方偏位量をそれぞれ求めた。なお、内側方向を正とした。
統計処理は、反復測定二元配置分散分析を行い、post-hoc testにはTukey法を用いた。有意水準はp<0.05とした。
【説明と同意】
研究内容に関する十分な説明の後、ヘルシンキ宣言に基づき作成された同意書への署名により同意を得た。
【結果】
下腿回旋可動域は、内旋群で内旋可動域が9.9±12.6°増加、全可動域が8.1±10.4°増加し、いずれも介入前後で有意差を認めた(p<0.05)。足底圧は、内旋群ではMP関節-舟状骨の中間にて7.1±10.0%の内側偏位が観察され、介入前後で有意差を認めた(p<0.05)。また、外旋群ではMP関節にて8.0±4.7%、MP関節-舟状骨の中間にて5.9±4.3%の外側偏位が観察され、介入前後で有意差を認めた。
【考察】
下腿内旋運動の介入の結果、内旋可動域および全回旋可動域が増加し、歩行の立脚後期でのCOP軌跡は内側へ偏位した。一方、外旋運動の介入の結果、歩行の立脚後期でのCOP軌跡は外側へ偏位したが、外旋可動域や全回旋可動域の増加は認めなかった。
以上の結果から、内旋位でのレッグプレスは脛骨内旋・足部回内の運動連鎖を、外旋位でのレッグプレスは脛骨外旋・足部回外の運動連鎖をそれぞれ導くことが示唆された。一方、可動域に関して内旋群でのみ効果が得られた原因として、多くの現代人は脛骨外旋位となっており、内旋可動域が縮小しつつあることが示唆された。以上の考察は、いずれも下腿外旋位となる膝OAの治療戦略を立案していく上で有益な情報となり、今後さらに対象者を拡大して研究を続ける必要がある。
本研究の限界として、サンプルサイズの不足が挙げられ、足底圧分布のその他の計測位置の変化についてβエラーが混入している可能性がある。以上を踏まえ、本研究の結論としては、「下腿内旋位でのレッグプレスは脛骨内旋・足部回内の運動連鎖を、外旋位でのレッグプレスは脛骨外旋・足部回外の運動連鎖をそれぞれ導く可能性がある」とする。
【理学療法学研究としての意義】
下腿内旋位でのレッグプレスは脛骨内旋・足部回内の運動連鎖を導くことが示唆され、下腿内旋運動は膝OAの予防および進行防止の運動プログラムに応用できる可能性がある。

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© 2011 日本理学療法士協会
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