理学療法学Supplement
Vol.38 Suppl. No.2 (第46回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: PI1-331
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ポスター発表(一般)
サッカー選手に対するテーピングの考察
笹代 純平浦辺 幸夫山中 悠紀篠原 博藤井 絵里高井 聡志馬 玉宝
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抄録

【目的】
有痛性三角骨障害はサッカーやバレエに特徴的な疾患で、サッカーでは足関節を底屈してインステップキックを反復することが原因とされている。保存治療として、テーピングがよく使用されるが、それは足関節底屈制限によって関節後面へのimpingementを軽減するように考えられている(平野ら、2005)。テーピングによるパフォーマンスへの影響について、筆者らは先の研究で、底屈制限のテーピングがインステップキックのボールスピードを低下させないことを明らかにした(2010)。しかし、どれほどの角度まで足関節底屈を制限してもボールスピードが低下しないかについては、いまだ明らかではない。本研究の目的は有痛性三角骨障害予防のためのテーピングによる足関節底屈角度の違いがボールスピードに与える影響を検討することである。具体的には、テーピングで足関節底屈角度をいくつかに設定してインステップキックを行い、ボールスピードを低下させない角度を明らかにすることとした。仮説として、テーピングによってインパクト時の足関節底屈角度を段階的に制限することができ、過度の制限ではインステップキックのボールスピードは低下するとした。
【方法】
サッカー経験のある男子大学生9名(年齢20.9±1.2歳、サッカー歴9.8±3.2年)を対象とした。テーピングによる足関節底屈制限によって0°、15°、30°、テーピングなしの4条件を設定し、インステップキックのボールインパクト時の最大足関節底屈角度とボールスピードを測定した。なお、各条件でキックの測定を行う前には、足部背側から第3中足骨中央部を徒手筋力計(アニマ社)によって40Nで圧迫した時の他動的足関節底屈可動域を測定した。テーピングは伸縮性のスプリットテープ3本(日東メディカル社) で足関節底屈を制限した。4条件の実施順は無作為とした。各5回のキックについて、3台のハイスピードカメラ(4 assist社)で撮影した画像から、動作解析ソフトDIPP-Motion XD(ディテクト社)を用いてDLT法で3次元座標を算出した。インパクト時の最大足関節底屈角度はボールが足部から離れる前後10ms間、ボールスピードはボールが足部から離れた後10ms間の3次元座標から算出し各対象の平均値を求めた。各測定項目について、4条件間での差の検定は一元配置分散分析および多重比較を用い、危険率5%未満を有意とした。
【説明と同意】
本研究は広島大学大学院保健学研究科心身機能生活制御科学講座倫理委員会の承認を得て実施し、対象には研究に先立ち十分な説明を行い同意を得た(承認番号1013)。
【結果】
中足骨部を40Nで圧迫した際、キック測定前の他動的足関節底屈角度は0°群で-0.1±2.1°、15°群で14.3±2.0°、30°群で28.8±1.6°、テーピングなし群で55.8±3.2°となり、すべての条件間で有意な差が認められた(p<0.05)。インパクト時の最大足関節底屈角度は0°群で18.3±10.6°、15°群で26.9±6.8°、30°群で32.5±9.6°、テーピングなし群で41.1±11.5°となり、0°群と15°群間、15°群と30°群間、30°群とテーピングなし群間を除く各条件間に有意な差が認められた(p<0.05)。ボールスピードは0°群で20.5±2.1m/s、15°群で21.5±2.2m/s、30°群で22.6±2.0m/s、テーピングなし群で23.4±1.3m/sとなり、0°群とテーピングなし群の間のみに有意な差が認められた(p<0.05)。
【考察】
テーピングによって他動的足関節底屈角度とインパクト時の足関節底屈角度の両者をほぼ段階的に制限できていることを確認した。0°群でボールスピードが有意に低下したことから、過度の足関節底屈制限は正常なインステップキックを阻害することが分かった。これは足関節底屈制限によって、インステップキック時の関節相互での運動連鎖に支障が生じるためと考えられる。一方、15°群や30°群のような底屈制限はボールスピードに影響せず有痛性三角骨障害の誘引となる足関節底屈角度を回避できるものと考える。本研究では、テーピングなし群でインパクト時の底屈角度が他動的底屈角度まで10°以上の角度を残していたことは非常に興味深い。これは有痛性三角骨障害が生じるインステップキック時の足関節後面でのimpingementの発生とは解釈が異なるのではないか。今後はキック回数を増やすなど、実際のプレーを行いテーピング効果の持続について研究を進めたい。
【理学療法学研究としての意義】
サッカー選手の有痛性三角骨障害を予防するうえで、テーピングによる15°から30°程度の足関節底屈制限が、インステップキックのボールスピードを低下させず有効であることが示された意義は大きい。

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© 2011 日本理学療法士協会
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