理学療法学Supplement
Vol.38 Suppl. No.2 (第46回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: PI2-213
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ポスター発表(一般)
体幹回旋動作における腰痛患者の筋活動特性
筋活動開始時間に関する検討
谷口 匡史建内 宏重森 奈津子市橋 則明
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抄録
【目的】
腰痛患者における体幹筋の筋活動について、先行研究より筋活動開始の遅延や脊柱起立筋の異常活動など多くの報告がなされてきた。これまで腰痛患者の筋活動開始時間について上肢挙上や片脚立位課題を用いて検討されてきたが、腰痛の発生要因として約60%が体幹の回旋と関連していることから、回旋動作についても詳細に検討する必要がある。そこで、本研究の目的は、腰痛患者の回旋動作における筋活動開始時間について明らかにすることとした。

【方法】
対象は、健常群15名(男性9名、女性6名:年齢25.2±5.5歳)および腰痛群15名(男性9名、女性6名:年齢22.5±2.4歳)とした。腰痛群は、Visual Analogue Scale(以下VAS)で30mm以上の腰痛が過去に3カ月以上続いた者とし、測定課題実施時には痛みのない者とした。神経症状を伴う腰痛や内部疾患および精神疾患による腰痛は、除外した。腰痛群における最近1カ月の疼痛は、VAS:平均35.6±23.3mm、腰痛群の健康関連QOL(Oswestry Disability Index)は平均15.1±10.5%であった。測定課題は、立位での体幹回旋動作とした。開始肢位は、両踵骨間距離を被験者の足長および足角10度とし、上肢は腹部の前で組んだ姿勢とした。対象者には、約2m前方で目線の高さに置かれたLEDランプを注視させ、LED点灯の合図にできるだけ速く回旋を開始するよう指示した。数回の練習後、左右ランダムにそれぞれ5回ずつ実施した。回旋角度の測定には、三次元動作解析装置VICON NEXUS(VICON社製)を使用し、サンプリング周波数200Hzにて実施した。また、筋電図測定には、表面筋電図TeleMyo2400(Noraxon社製)を使用し、サンプリング周波数1000Hzにて三次元動作解析装置とLED信号を同期されたパソコンに記録させた。非利き手側への回旋動作を解析に用い、LED点灯から回旋動作開始までの所要時間(動作開始時間)、回旋動作を基準とした筋活動開始時間を算出した。回旋動作開始の規定は、静止立位時における胸郭回旋角度データの最初500msecの平均角度を3標準偏差以上上回るかつ100msec以上継続している最初の点とした。筋活動開始時間の算出には、Cumulative sum (CUSUM)を用い、LED点灯前500msecから点灯後1000msecまでを解析区間とした。なお、解析者には対象群が判断できないよう第3者によって盲検化した状態でデータ解析を実施した。対象筋は、非回旋側多裂筋、非回旋側外腹斜筋、非回旋側大殿筋、回旋側腹横筋(内腹斜筋)、回旋側脊柱起立筋、回旋側広背筋の6筋とした。統計学的検定には、Mann-Whitney検定を用いて動作開始時間及び各筋の筋活動開始時間を両群間で比較した。有意水準は5%未満とした。

【説明と同意】
本研究は、倫理委員会の承認を得て実施した。対象者には本研究の目的を十分に説明し、書面にて同意を得た。

【結果】
結果は中央値(四分位範囲)で表記する。動作開始時間は、腰痛群:346.7 (75.8)msec、健常群:334.7 (85.2)msecであり、両群に有意な差はなかった(p=0.62、効果量:0.2)。一方、筋活動開始時間は、腰痛群における外腹斜筋が-56.6 (43.3)msecであり、健常群の-109.4 (43.4)msecよりも有意に遅かった(p<0.01、効果量: 0.47)。また、統計学的有意ではないが、多裂筋では健常群: -89.7 (28.1)msecに対して腰痛群: -74.9 (26.6)msecであり、筋活動開始が遅延する傾向がみられた(p=0.08、効果量: 0.33)。しかし、その他の回旋筋では、筋活動開始は遅延していなかった。


【考察】
腰痛群では回旋動作開始に対する外腹斜筋の筋活動開始が有意に遅延していた。先行研究より上下肢挙上課題では、腹横筋や外腹斜筋など体幹固定筋の予測的筋活動の遅延が報告されている。しかし、本研究で用いた回旋動作課題における外腹斜筋の活動は主動作筋としての活動である。つまり、腰痛群における回旋動作では、従来報告されている固定筋としてではなく、主動作筋としての外腹斜筋の筋活動遅延が明らかとなった。多裂筋など固定筋の筋活動遅延は脊柱不安定性を生じる一因とされており、これらが主動作筋の筋活動開始をも遅延させた可能性がある。しかし、広背筋や大殿筋といった他の回旋筋は遅延していなかったために、動作開始時間は両群で差がなかった。つまり、腰痛群では体幹筋群の正常活動パターンから逸脱し、時間的順序のモータープランニングに変化が生じている可能性が示唆された。

【理学療法学研究としての意義】
腰痛群において従来の固定筋としてではなく、回旋主動作筋である外腹斜筋の筋活動遅延が明らかとなった。時間的順序の変化が腰痛と関連している可能性を示唆したが、筋活動開始が遅延するメカニズムについては未だ明確にされていないため、今後さらなる研究が必要である。
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© 2011 日本理学療法士協会
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