抄録
【目的】
当院では膝前十字靭帯再建術後の競技復帰基準のひとつとして角速度60度での等速性膝伸展筋力の健患比および等尺性最大収縮である体重支持指数(WBI)を用いてきた。また、健常者における等尺性膝伸展筋力と等速性膝伸展筋力の関係性についての報告は散見されるが、前十字靭帯再建術後の等尺性膝伸展筋力と等速性膝伸展筋力の関係性についての報告は少ない。そこで、今回の目的は当院にて半腱様筋(+薄筋)を用いた解剖学的二重束前十字靭帯再建術を施行した症例における、再建術後のWBIと角速度60度での等速性膝伸展筋力の関連性を検討することとした。
【方法】
対象は2005年1月から2008年7月の間に前十字靭帯再建術を施行した537例のうち、術後1年以上経過観察が可能であり、術後6ヶ月・術後12ヶ月に筋力測定可能であった272例とした。性別は男性143例、女性129例、平均年齢は26.0±9.2歳であった。筋力測定はBIODEX社製BIODEX system3を用いてWBI、角速度60度での等速性膝伸展筋力を測定した。等速性膝伸展筋力は最大ピークトルク(ft・lbf)を体重で除した体重比(%BW)を用いた。検討項目は術後6ヶ月・12ヶ月の測定結果を患側および健側の2群に分け、各群内でのWBIと角速度60度での等速性膝伸展筋力の相間および単回帰分析とした。統計学的分析はSPSS 12.0 J for Windowsを用い、Pearsonの相関係数およびSpearmanの相関係数を算出し、有意水準は1%とした。また単回帰分析より等速性膝伸展筋力からWBIの予測値を算出した。
【説明と同意】
本研究は当院倫理委員会で承認を得て行った。被験者に対しては、研究の全過程において倫理的な配慮や人権擁護がなされていることを十分に説明し同意を得ている。
【結果】
患側においてWBIと等速性膝伸展筋力の間に強い相間を認めた(N=544、r=0.79、R2=0.62)。また、健側においても同様に強い相間を認めた(N=544、r=0.73、R2=0.54)。
単回帰分析より予測値はWBI 0.8に相当する角速度60度の等速性膝伸展筋力は患側56.9%BW、健側58.3%BWであり、WBI 1.0相当は患側 80.6%BW、健側 79.1%BW 、WBI 1.2相当は患側 101.3%BW、健側 102.8%BWであった。
【考察】
前十字靭帯再建術後症例の競技復帰基準のひとつとして膝関節等速性筋力の健患比が用いられることが一般的である。しかし、健患比を用いた評価・基準の問題点として健側筋力値により左右されることが挙げられる。WBIは等尺性膝伸展筋力の体重比を算出したものであり、基本的生活動作から競技スポーツ動作での荷重運動機能を判定することが可能で、全身の機能的筋力測定評価法であるとされている。そのため、健側値に左右されることなく、筋力と運動障害の関係を評価することが可能である。しかし、今回の結果から前十字靭帯再建術後において、患側・健側ともにWBIと角速度60度での等速性膝伸展筋力に強い相間が認められた。また、単回帰分析より得られた結果から角速度60度での等速性膝伸展筋力の体重比をWBIへ換算することが可能であり、前十字靭帯再建術後症例の筋力評価として等速性膝伸展筋力の健患比だけでなく、体重比も有用であることが示唆された。
【理学療法学研究としての意義】
本研究の結果より前十字靭帯再建術後症例においてもWBIと角速度60度での等速性膝伸展筋力との相関関係が認められたことから、前十字靭帯再建術後における筋力評価として等速性膝伸展筋力の健患比のみでなく体重比を用いることが、前十字靭帯再建術後症例の評価・治療の一助となると考えられる。